さんざめく感情

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 何が? と彼は、ひと口を食べた後に珈琲を味わいながら、逆に訊いてくる。何が、って。具体的に指摘すると、意識しまくっている自分が少し恥ずかしい。私だけ? 私ばっかり? こんなに嬉しくてときめいて、甘い心地に溺れそうで。誰かに助けすら求めそうな状態。 「えーとですね。……今日はなんだか、香澄くん、積極的だなと」  目を泳がせている自分、顔が熱くなる自分。何がだ、と訊ねてくるその距離すら距離すらいつもより近くて、心がとろとろに溶けそうだ。そんなことを考えていると、香澄は私をじっと見たあと。少しずつじわじわ赤くなって、視線を投げ捨てた。え!? タブーだった!? 「な、何かした、私!?」 「違う。違うんだ、泉帆」  やめてくれぇ、と。他所を向いて、柄にもなく情けない小声を零している彼の耳は赤い。どうにかちょっと、お互い冷静になったほうが良いかも。「少し、人の居ないところに行って、落ち着こう」持ちかけたら、散々少しの間に考えた様子だったけれど、こくりと頷く。途端、手をかっさらわれ、ずんずん歩き出した。
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