さんざめく感情

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さんざめく感情

 海を前にした川の流れに、気持ちがあったとしたら、こんな感じじゃないのだろうか。  お手上げ、ってことです。 「それ、ひと口くれ」  返事をする前に、私の食べかけバウムクーヘンを齧るのは、最近、恋人になった香澄くんだ。移動式の屋台というものを珍しく見かけて買ってみた、美味しいもの。私も、満足、美味しい幸せ! と、なりたいけれど……わくわくしていた、今日の初めてのデートでは、思った以上に余裕がない。  いつも、大学帰りに歩く彼とは、なんだか違う。待ち合わせで会った途端に、抱き着いてくる香澄くん。電車に揺られるときに自分の膝の上に私を、どっかりと乗せ、ちいさく鼻歌をうたう香澄くん。写真を撮るとき、腰に手を回してくる香澄くん。人前にもかかわらず「好きだと思ったからした」という、言い訳になってない言い訳で、突然キスをしてくる、香澄くん。  ……どうしちゃったの、本当に。一つ一つの行動に、心臓が爆発しそうで、もたないよ。 「うまいな」 「ねえ、今日どうしたの? いつもと少し違う」 (少しどころか、スキンシップが過剰で、とっても違うのだけれど!)
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