究極の選択

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「おう菜月、久しぶり! 今仕事帰り?」  久しぶりの片えくぼについ見入ってしまう。 「あ、ううん。仕事帰りに遥香とご飯食べに行ってて……。これ、遥香から」  経緯も話さないまま、陽向に封筒を差し出した。 「えっ、遥香って、高校ん時一緒だった近藤遥香だろ?」  陽向が受け取った封筒を不思議そうに眺めるのも無理はない。遥香と陽向がそれほど親しい関係ではなかったからだ。 「うん、そうそう。確かに届けたからね」  言い終えると同時に背を向けていた。一刻も早くこの場から立ち去ることしか頭になかった。 「おう……あ、待って!」  呼び止められて振り返った菜月が目にしたのは、何の躊躇いもなくいとも簡単に封を開けている陽向の姿だった。 「近藤からだよな?」  取り出した便箋を開きながら念押しするように尋ねる陽向の様子が不愉快で仕方ない。 「でも……結婚するから」  釘を刺すような言い方をした自分には、それ以上に嫌気がさした。 「えっ、菜月結婚するの!?」 「いや、私の話じゃないでしょ」 「いや、この流れはお前だろ」 「はあ? どの流れ? 意味わかんないんだけど」  手紙は確かに五年間自分の部屋の引き出しの中にしまってあったものだ。手品のように中身がすりかわるわけがないし、ラブレターを書いた記憶もない。 「何で今なんだよ」  陽向が困惑の表情を浮かべた。 「それは……」 「お前これ読んだ?」 「よ、読むわけないじゃん。さすがにそれは人としてやっちゃ駄目なことでしょ」 「読んでみろよ」 「遠慮しとく」 「俺が許可する」 「いいってば!」  人の気も知らないで、とデリカシーのない陽向の言葉に苛立ちを覚えた。 「じゃあ俺が読んでやるよ」 「えぇっ!?」  思わず大きな声が出た自分に驚き、菜月は慌てて口を押さえた。 「『陽向へ』」 「ちょっ――!!」  そんな菜月に構わず陽向が読み始めた。 「『陽向が菜月のこと好きなのはバレバレだよ。もういい加減決心しなよ』」 「え?」  菜月は陽向の顔をまじまじと見たが、陽向は便箋に視線を向けたまま続ける。 「『テスト明けの金曜日の放課後、菜月を連れて中庭で待ってるから』」 「え、嘘でしょ……」 「『P.S.心配無用。必ずうまくいくから』って、あいつ他人事だと思って……何を根拠に」  顔を上げ苦笑いを見せた陽向は、リアクションに困る言葉を口にした。追伸に隠された意味に、陽向はまだ気付かない。  いつだったか遥香に陽向との関係を聞かれた時、照れ臭さからつい「幼馴染みで腐れ縁」などと言ってしまった。けれども、彼女には全てお見通しだったというわけだ。あの時、自分は陽向が好きだと打ち明けていれば、こんな事態を招くことはなかっただろう。
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