梨香子

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 女同士、歳が離れていても楽しく会話が弾んでいたのですが、ふいに彼女が「ここの田舎、有名なのがの怪談だけなんて、つまんないですよね」とこぼしたそうです。Aさんが首を傾げると、彼女は意外そうな顔をしました。  どうやらこの田舎で知らない人はいない、有名な話だといいます。  その『入ってはいけない山』と呼ばれる山は、実家の近くにある華貫山(かぬきやま)の通称で、山を囲むようにフェンスが張られていることもあって、地元の人間は立ち入らなかったそうです。ところがある時から「面白半分で山に入ったやつが消えた」「誰かに腕を引っ張られた」という噂が立つようになりました。  全ては年に一度行われる、奇妙な祭りのせいだといいます。地域の男たちが灯籠を持って山に入っていくだけのものですが、それがSNSで話題を呼んだことによって、山へ入る人間が急増したそうです。帰ってきた人間は決まって、「妙な女に会った」と話していたといいます。  暇つぶしにはちょうどいい内容でしたが、Aさんは幽霊を信じていないので、「誰かの作り話でしょう」と笑いました。すると彼女は、「本当ですって! 信じられないなら一緒に行きますか?」と言い、退屈していたAさんは、その提案に乗ってみることにしました。  彼女に案内されるまま山に向かい、麓に着いてすぐ、Aさんは違和感を覚えたそうです。  時刻は午後一時を回ったばかりだというのに、やけに薄暗く、麓を囲うように設置されたフェンスは見上げるほどの高さがあり、傷一つなかったといいます。
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