梨香子

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 なんだか変な場所だな、と思いながらも、スタスタと歩く彼女の後をついていくと、人が一人通れるくらいの穴を見つけたそうです。  気になったAさんが穴から向こう側を覗くと、数十メートル先に苔むした祠のようなものが見えました。穴に顔を近づけた体勢のまま、「ねぇ、あれなに?」と彼女に聞いた直後でした。 「自分で確かめなよ」  突然、ドンっと背中を突き飛ばされたのです。   Aさんは咄嗟にフェンスに手をついて阻止したのですが、女の子はその後も背中を押し続けてきたそうです。このまま中へ入ったら無事では済まされない。そう思ったAさんは、力を振り絞ってその手を払い除けました。そこでAさんは、女の子が普通ではないと気づいたそうです。  というのも、普通は払いのけられたら怒るなり、謝るなりしますよね。でも、女の子は壊れた人形のように身体をガクガク揺らしながら笑っていたんです。  最初は、ふ、ふふ、ふふふふ、と、小さかった笑い声も、やがて、ぎゃははははは。ははは。げらげらげらと大きくなっていきました。  彼女はひとしきり笑ったあと、「お前、美味そうだなあ!」と大声で言ったそうです。どう見ても人間じゃない。そう直感したAさんは、夢中で来た道を走って帰りました。
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