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目の前の女性は、ぷるぷると小鹿のように震えていた。その顔は真っ青に染まり、目にはいっぱいの涙をためている。
「お、お願いします、お願いします……!」
彼女は頭をこすりつけんばかりの勢いで、床に土下座をした。
「今回は、ほ、本当に……申し訳ありませんでした、魔王様。わたくしの力不足で、勇者を止めることができず……も、申し訳なかったと、心から、思って、おります……」
掠れた声。
怯えた声。
自分に待ち受ける運命を恐れ、命乞いをする者。
しかし、僕は魔王。この世界を征服し、全てを手に入れる男なのだ。彼女の失敗は許しがたい。自分は彼女ならばと信じてあの砦を任せたのだ。その信頼を裏切ったのは彼女なのである。
責任は取らせなければいけない。
そうでなければ死んでいった部下たちにも申し訳が立たないし、何より魔王としての沽券に関わるというものだ。
見せしめは必要なのである。例え彼女がどれほど惨めな涙を流したとしても。
「あと、あと一回だけでいいんです。私に、私にもう一度、あの者達を始末するチャンスを!」
「ならん」
僕はきっぱりと言い放った。
「あと一回だけ?……どうせまた失敗して、同じ命乞いを繰り返すのであろう?そういうのはな、一回たりとも許してはならんのだ。次がある、失敗してもまたチャンスがもらえる……その気持ちが心のゆるみにつながり、敗北を招く。そうであろう?」
「わ、わたくしは!今度は、絶対……!」
「今回の任務の前にもそう言っていたはずだ、お前は。でも結局失敗した。僕が許してくれると思っていたからだろう?」
「そ、それは……っ」
動揺に揺れる瞳。僕はにやりと笑って、腰の剣を抜いた。
「お仕置きだ。……避けてくれるなよ?でないと手元が狂って……もっと苦しむことになるだろうからなあ?」
「いや、いや、いやああああ!」
彼女はぺたりと座りこみ、尻餅をついたまま後退っていく。そして。
「ごめんなさい……ごめんなさいごめんなさい魔王様!し、し死にたくないです、ゆ、許して、許してくださ……いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
そして僕は無慈悲にも、剣を振り下ろしたのだった。
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