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再会
昔から人当たりだけは妙に良かった。
誰ともいざこざを起こさず、誰ともそつなく関わるようなタイプ。
全寮制の高等学校に進学して1年。
四六時中、赤の他人と生活をする環境下でもそれは変わらず…というよりその良さを存分に発揮して、極めて穏やかに過ごしてきた。
そんな平穏に波が立ったのは、本当に突然だった。
「七海、いきなりで本当に悪い。部屋替えをさせてほしい。」
あと一か月程で学年が上がるというタイミングで、つい最近寮長になったばかりの壬生から打診があった。
いつもきりっとした姿が印象的な壬生の眉は若干下がっている。
その珍しい姿を見る限り、寮長という役職を引き継いだばかりの壬生を困らせることがあったようだ。
この学園では、基本的に同室者や部屋を替えることはない。
どうしても両者の性格が合わなかったり、トラブルがあった時だけ、たまに入れ替えるくらいだ。
まさか自分にそういう話が来るとは思わず驚いた。
今のルームメイトと入学してから1年過ごしたが、上手くいっていると思うし、問題も起こしていないはずだ。
「えっと、俺、気づかない間に何かやらかした…?」
「いや、違う。完全にこっち側の事情だ。」
一先ず自分のせいではないらしい事が分かり、胸をなでおろした。
「同級生の赤月って奴、知ってるか?その同室者がこの学園の提携校に編入することになったんだ。それで赤月が新学期から一人になるんだが…。」
そこで少し言いよどんだが、すぐに言葉を続けた。
「あまり一人にしてしまうと好き勝手やってしまう奴で…。七海は面倒見が良いようだし、優等生だって聞いてる。だから同室をお願いしたい。」
「赤月…は名前しか知らないな。というか俺、面倒見が良いってよりかは口うるさいだけだと思うけど…。優等生っていうのも、ただ当たり障りなく生活してるだけだよ。」
赤月は俺とは離れたクラスで、たまに名前を聞くくらいだ。
確かに名前を聞くときは、『他校と揉めた』とか『ケンカした』とかの噂も一緒だった。
「そんな事ないさ。お前、周りからの評判良いんだぞ。
まあ赤月の事をお願いしたいとは言ったが、深く考えなくて良い。ちゃんと夜は寮に帰って来るように言ってくれるだけで十分だ。
何か問題があればすぐに元に戻すから、そこは安心してくれ。今はきっと七海くらいしか適任がいない。お礼もする。」
「…お礼?」
「英語に携わる仕事に就きたいと言っていたな。それでアメリカに提携校のあるこの学園を選んだらしいな?翻訳者の知り合いに口利きしてやれる。」
「乗った。」
何となく理由は分かったし、そこまでしてくれるなら断る理由もない。
彼の噂もあくまで噂止まりで、実際に学園から処分を受けたなどは聞いたことがない。
案外、そこまで危険な人ではないかも。
そう思って承諾したところまではいいのだけど…。
初めて会った新しいルームメイトは、周りを倒れた人たちで囲まれ、汚れた拳で口元を拭う姿だった。
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