動揺

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動揺

ゴールデンウィークに入るとすぐに、生徒たちのほとんどは寮に籠ることなくあっちへこっちへと好き放題に出かけて行き、休みを謳歌し始めた。 今年は振替休日が重なり、4連休だ。 少し遠くへ遊びに行くには十分な休暇日数。 せっかくの連休ならと、ダメもとで赤月を遊びに誘おうと思って声をかけたら、帰って来た返事は『無理』の一言だけだった。 まさか連休中も怪しい事をしに行くのかと心配になりしつこく聞いてみると、はっきりとは言わないが普通の予定もあるらしかった。 そんな訳で、連休初日からリビングに一人ぽつんと座っている。 実際には、リビングで赤月と過ごしたことなんて無いから普段から一人ではある。 だけど今は『好きな人』だと自覚していて、『友達になる』ことを目指している俺にとっては、連休に赤月と何も出来そうになく、結局変わらず部屋に一人なのが悲しく感じる。 遊びに行ったりして、お近づきになれるチャンスかもしれないのに。 勝手に残念がりながら冷凍庫に隠し持っていたアイスを食べていると、亜希からラインのメッセージが届いた。 『暇してたら、俺らのところでゲームやらない?』 嬉しいお誘いに、迷わず直ぐに行くと返信した。 ゲームなんて久しぶりだ。 亜希と同室の頃は、新作のゲームが出るたびに一緒にやっていたっけ。 急いでアイスを食べ終わらせて適当に服を羽織ると、早速あの懐かしい以前の自分の部屋へ向かった。 亜希のところに着くと、今の彼の同室者とすでにテレビに繋げて大画面でゲームをしていた。 異世界の寂れた世界で生き抜く内容のゲーム。 モンスターを狩ったり、アイテムを探したりと、よくあるような設定。 だけど、結局はこういう王道モノが一番楽しかったりするのだ。 「よう、来るの早かったね。コントローラーあるから入って来いよ。」 亜希の同室者は、水瀬 類くんという。 去年、同じクラスだったので面識がある。 彼は自分の隣をぽんぽんと叩き、ここ空いてるよと教えてくれた。 「類くんがこういう系のゲームやるの珍しいね。」 「たまにはね。今日はお前の同室者は?ワンチャン一緒に来るかと思った。」 「赤月は出かけてる。居たとしても一緒には来ないよ。」 俺と類くんの会話を聞いていた亜希が、からかうように言った。 「えー?この前お前ら仲良さげに一緒に帰ってたじゃん。」 「別に仲良くなった訳じゃないよ。俺が一方的にしつこくしてるだけ。」 その言葉に今度は訝しげに眉をひそめた。 あの赤月に進んで構いにいくなんて、まぁ、疑問にも思うだろう。 なんて言ったって黒い噂は絶えないし、不真面目だし、一匹狼状態の彼だ。 「七海、最初はあんなに赤月にムカついてたのにな。最近まで必死に追いかけてたし。どんな心境の変化よ。」 「…大した理由はないんだけどね。一緒の部屋だし、どうせなら仲良い方が楽しいでしょ。」 亜希はそれもそうか、と呟いたが、表情はまだ納得出来ていなさそうだった。 それには気づかないフリをして、話題を変えようと思い、テーブルの上にあるお菓子を食べても良いかと聞こうとした。 が、その前に類くんが思わぬ話をし始めた。 「赤月、中学までは普通に同級生とか先輩達と仲良くやんちゃしてたっぽいけどな。俗にいう陽キャって奴。」 事もなげに言う類くんだが、いきなりの情報にお菓子に伸びてた手が止まった。 亜希も少し驚いた声で、類くんに聞いた。 「え、水瀬って赤月と同じ中学だったの?」 「いんや、同じではないよ。アイツと同じ市内の中学校でさ、二つしか学校無かったんだよ。一中と二中みたいな。だからお互いの学校の噂なんてすぐ入ってきてたんだよね。」 中学校の頃の赤月…、今よりやんちゃ…。 …正直、良い。その時の赤月に会いたい。 そんな邪な考えを必死に振り払った。 「今と違うの?」 「そうだね。あの容姿じゃん?それで学校のカーストトップ集団にいるってなったらそりゃあ人気者よ。 何で今は友達いないんかね。悪い意味で目立っちゃってるよなぁ。もったいない。」 意外だった。 普通に友達と仲良く過ごしていたなんて、今の赤月からは想像がつかない。 …いや、そっちが本来の姿なのかもしれない。 この先を聞いてもいいものなのか迷っている内に、亜希が言葉を続けた。 「まあ、何かあったのかもしれねぇな。」 「…あー、そうね。騒ぎはあったわ。確か一番仲良かった…。」 「あの!」 そこまで聞いて突然立ち上がった。 危ない、ダメだ。 赤月は自分のことを詮索されるのを嫌がってた。 こういう形で聞くのは何だか憚れる。 「どうした?」 「…トイレ借りたい。」 気にはなる。知りたい。 でも、いつか赤月から聞けたらそれが一番良い。 その後は赤月の話題には触れずに、気を紛らわすように疲れるまでゲームに集中した。
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