花笑む

1/5
前へ
/23ページ
次へ

花笑む

ゴールデンウィークが間近に迫り、何となく学園全体が浮足立っている中、七海だけはずっと渋い顔をしていた。 この学園では、事前申請すれば大型連休中に外泊したり、遅くまで遊びに出かけることも可能だ。 他の生徒は、その申請を出すために予定を立てることで忙しくしていた。 でも、七海にとってはそれよりも重要な事が起こっていた。 ここ最近、なんだか赤月の様子がおかしい。 前よりも明確に避けられている。 元々態度が冷たい奴ではあったが、それは俺以外の他の人にも当てはまる距離の取られ方だった。 言うなれば、俺も『その他大勢』の中の一人に過ぎなかった。 でも、今はまるで俺自身を避けてるようなのだ。 それを確信したのは、つい先日だ。 壬生に、部屋替えしてからの様子を聞きたいと言われ、寮長の部屋に行った日だった。 部屋には赤月もいて、同じく壬生に呼ばれたのかと思ったのだが、俺と目が合うなりさっさと出て行ってしまった。 その時は、入れ違いで話が終わったのだろうと気にしていなかった。 でも、その後の壬生の言葉で一気に気持ちが落ち込んだ。 『全くアイツは…。そんなに七海と顔合わせるのが気まずいのか。お前ら何かあったのか?』 壬生の質問はそっちのけでどういう事なのか聞けば、赤月はただ暇つぶしに来ていただけだった。 そしてアイツの性格上、誰か来たとしても全く気にせず家主のごとくふんぞり返るらしい。 他人が原因で自分が動く、というのが好きではない、と。 ということは、『俺が来たから部屋を出た』のは、よっぽど俺と顔を合わせたくなかったからという事になる。 (心当たりは…あるんだよなぁ。) いきなり抱きついてしまったあの日しか考えられない。 なんだったら、下の名前で呼ぶというオマケ付き。 ただえさえあまり人と関わろうとしない赤月だ。馴れ馴れしく感じただろう。 「そうは言ってもさぁー?あからさま過ぎやしませんかね。好きな人に避けられるってキツいよー…。」 自室でベッドに寝転がりながら、どうしたものかとひとすら唸る。 いくら考えても、解決策は一つしか思い当たらない。 「話をするべきだよなぁ。」 嫌だったのなら、何度でも謝ればいい。 俺の勘違いだったのなら、それで終わる話だ。 そう心に決めてみると、ちょっとだけ気持ちが軽くなった気がした。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加