花笑む

4/5
前へ
/23ページ
次へ
これ以上七海と関わらないように。余計なことを思い出さないように。 そのために顔を合わせず、言葉を聞かず、話さず、避け続けた。 昔の記憶を持った七海は話したそうにしていたが、全て無視して逃げた。 いつか諦めるだろうと思っていたが、七海は想像していた以上にしつこかった。 あまりの諦めの悪さに、壬生に思わず愚痴をこぼした事がある。 『そう言う割に、結構楽しそうじゃないか。』 そんな訳あるか、と否定した。 毎日のように俺の後ろを追いかけてくる七海は、まるで犬みたいだった。それも小型の。 動物に付きまとわれて楽しいはずがない。 でも、寮内で走って壬生に怒られても、学校で妙に目立ってしまっても、必死になっている姿を見るのは悪くなかった。 屋上で寝ていた時、七海からしたらせっかくのチャンスなのに静かに去ろうとした気遣いがくすぐったかった。 生け垣に落ちた時は、その無鉄砲ぶりに思わず笑ってしまった。 純粋無垢で、たまに不器用。 昔から七海の根本は変わらない。 だから、『俺から逃げないで』という真っ直ぐな言葉は刺さった。 そりゃあ、逃げたくもなるだろう。 お前といると心が揺らぐ。 そっちに寄り添いたくなるんだ。 それだから逃げているのに、必死に追いかけてくる姿を見せられ、真っ直ぐな言葉を投げられたら、少しくらい受け入れてしまいたくなる。 こういうのを、『絆される』というのだろうか。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加