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 ああ、ごめんなさい。  わたしは、動く影が何ひとつ見えない窓に向かってわびた。  なんてよこしまで勝手な思いをいだいてしまったのだろう。  きっと何かわけがあるはずなのに、わたしは自分のことだけを考えてしまった。  あのきれいな鳥はもう、この窓には戻ってこないかもしれない。  どうしよう、どうしよう  戻ってきて、戻ってきて  お願い教えて、わたしはどうすればいいの?  そうだ、とわたしは思った。  あの鳥が好きそうなものを、窓辺に置いて置けばいいんだわ。  どんなものが好きなのだろう。きっと素敵な物を食べるにきまってる。  わたしの用意したご飯を とっておきのおもてなしを  夢中でついばむ鳥が、目に見えるようだ。  寂しくさせてごめんよ。もっと早く来ればよかった。  ううんいいの。だってわたしたち、おたがいのことをよく知らないんだもの。  そうなのだ  わたしはあの鳥の名前も どんな暮らしをしているのかもまったく知らない。  でも知らなくていい むしろ知らないほうがいい  知ったらいろいろなことがきっと つまらなくなってしまうだろうから。  わたしにはわかる。調べなくても全部わかる。  そしてそれはきっと 間違ってはいない。 間違っているはずがない。  ああ、この人はどうしてこんなにも自分のことがよくわかるのだろう。  喜びにきれいな羽根をはばたかせる、鳥の姿が今からはっきりと目に浮かぶ。  おもてなしをしよう  わたしの想いのすべてをこめて。
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