1人が本棚に入れています
本棚に追加
「嫌なら無理にとは言わんよ。ここに来るまでの交通費とちょっとした謝礼は払うから帰ってくれてもいい」
「大丈夫です。やります」
「お、やってくれるか」
引き受けるとは思わなかったのだろう、福沢は相好を崩した。それから、立ち上がり作業台に歩み寄よると、ランドセルのようなものを指差した。
「これが私の作ったタイムマシンだ」
夏目はタイムマシンというのは、ハリウッド映画に出てきた自動車ようなやつを想像していた。けれど、福沢が示したのはランドセルのように肩にかけて背負うものだっだ。
「早速やってもらおうかな」
福沢に促されて、夏目は作業台からランドセル型タイムマシンを取り上げた。重い。五キロほどあるのではないか。背中に担ぐ。
「これを腕に付けてくれ」
と、福沢が腕時計のような物を渡した。一見するとスマートウオッチに似ている。それを腕に嵌めた。
「それはタイムマシンを操作するためのウェアラブル端末だ。行きたい年月日時間を目覚まし時計のようにセットして、スタートキーを押すのだ。出発した時間に戻る時はリターンキーを押せばいい」
「分かりました。じゃあ、取りあえず、百年未来に行ってみます」
「そりゃ駄目だ」
「えっ、じゃあ二千年前にセットします」
「それも駄目だ。このマシンはまだ試作機なんだ。前後一日、つまり明日か昨日しか行けないんだ」
明日か昨日……これでは作り話は難しい。でも、ここで後には引けない。それらしい作り話を作ってやろうじゃないか。
「あれを見てくれ」
福沢は壁の方向を指差した。日めくりカレンダーが掛かっている。日付は今日だった。
「まず、昨日に行ってもらう。当然、あの日めくりの日付けは昨日の日付になっている。それをちぎって持って帰るのだ。その後で、明日に行ってもらう。そして、明日の新聞を持って帰ってもらう」
夏目は目的時間を昨日の現在時間にセットした。そして、ちょっとためらってからスタートボタンを押した。直後、周りの景色が揺らめいたかと思うと、暗黒が眼前に広がった。けれど、それは短時間で、直ぐに見覚えのある部屋が現れた。福沢が目の前にいる。
「俺は昨日に来たのか?」
本当に昨日なんだろうか。タイムマシンを動かす前と何も変化が
ないように見えるが。
「そうだ、昨日だ」
福沢は壁の日めくりを指差した。昨日の日付だった。
夏目は昨日の日付が印刷されている紙を破り取った。
「もらっときます」
そう言って、ウェアラブル端末のリターンキーを押した。
「昨日への時間旅行は成功だな」福沢は夏目から日めくりの紙を受け取る。「次は、明日だ」
夏目が明日に来ると、やはり福沢が目の前にいた。手に新聞紙を持っていて、それを夏目に差し出す。見れば、明日の日付になっている。夏目は新聞を受け取って、今日に戻った。
「明日行きも成功だな。時間旅行は可能なことが証明された。後は、もっと遠くの未来と過去に行けるようにすることだ」
夏目から新聞を手渡された福沢は、満足そうに目を細めた。
最初のコメントを投稿しよう!