夏目ー福沢邸

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夏目ー福沢邸

 突然降り出したにわか雨は、直ぐに上がったけれど、土砂降りと言っていい降り方だった。おかげで、手入れのされていない庭はぬかるみに変わった。  夏目は雨を呪いながらぬかるみを歩いて行く。 母屋までは舗装された道が通じているが、母屋に並んで後から建てられた研究棟までは、舗装された道はなかった。  研究棟の窓から明かりが漏れている。まだ福沢は仕事をしているのかもしれない。  夏目は研究棟のドアをノックした。  少し待つとドアが開いた。福沢が立っている。 「何だ、こんな時間に。忘れ物か?」 「スマホを忘れたんです」  夏目は嘘を言った。スマホはちゃんと持っている。 「そうか」 「探してもいいですか」 「ああ、勝手に捜しな」  福沢は夏目を室内に入れると、応接セットの椅子に腰かけた。応接テーブルには缶ビールが何本か載っていた。出前用の寿司セットも載っていたが、大半が食べられていた。実験の成功を誰かと祝っているということか。もし、そうなら他に誰かいるということだ。今夜は決行中止だ。しかし、念のために聞いてみる。 「いい調子ですね。誰かと宴会ですか?」 「いや、ひっ、一人だ。一人で実験成功の祝いをやってたんだ。気にせずスマホを探せばいい」  やはりな……。福沢というやつは家族とか友人とかには関心が無い人間なんだな。関心があるのは自分の研究だけということか。 「じゃあ、探させてもらいます」  夏目はスマホを探す振りをして室内を移動した。そうして、さりげなく福沢の背後まで来た。ジャケットのポケットから紐を取り出し、その端を握ってぴんと張った。そして、すばやく福沢の首に回し、一気に絞めた。福沢の体から力が抜けていくのが分かった。  作業台の上に載っているタイムマシンを肩に掛け、ウェアラブル端末を手首に巻いた。タイムマシンはランドセルのようだが、 リュックサックにも見えるので、大人が担いでいても違和感はない。 そのまま電車に乗ってアパートに帰った。  気になるのは、福沢邸の庭に残した靴跡のことだ。警察が調べれば夏目の靴がつけた跡だと分かるだろう。そうなれば、容疑者としてあつかわれる。しかし、アリバイがあれば容疑者から外れる。事件当時に現場にいなかったということは、無実の強力な証なのだ。だから、アリバイを作るのだ。  タイムマシンを使って二時間過去に行く。近所の馴染みの居酒屋に顔を出し、居酒屋のオヤジ相手に酒を飲みながら駄弁る。二時間ほどしてから店を出た。次に三時間過去に行く。近くのコンビニに行って、牛乳を買った。店員とは顔見知りなので、夏目がその時間に店に訪れたことを証言してくれるだろう。これで、アリバイは成立だ。
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