刑事

1/1
前へ
/9ページ
次へ

刑事

「行き詰りましたね」ラーメンの麺をズズズッとすすり上げて、北里刑事が言った。「闇金の線も消えましたし……」 「うん、闇金のやつらが保険金目当てに殺ったと考えたんだが、そうじゃなかったな」  麺を摘まんだ箸を途中で止めて、渋沢刑事が応じる。警察学校を卒業して日が浅い北里刑事に対して、こちらは刑事歴二十年のベテランだ。 「福沢博士の方も手詰まりですね」 「そうだなあ。福沢のアリバイは裏付けられたからな」 「ええ、夏目が殺害された頃には自宅におりました。寿司を届けたウーバーイーツの配達員も証言してますし、近所のコンビニで缶ビールを買ったことも分かってます。完璧です」 「そうだな、完璧だ。しかし、完璧すぎて却って怪しいんだ。俺の勘がそう言ってるんだがなあ。でも、そのアリバイは崩せないんだよな」 「渋沢さんの勘はよく当たりますよ。私も福沢博士が怪しいと思ってます。でも、彼のアリバイは作られたものです」 「どうやって作ったんだ?」 「笑わないでくださいよ」 「笑うかどうかは、話を聞いてからだ」 「博士はタイムマシンを使ったんです」  渋沢刑事は唖然として北里刑事を見た。しかし、彼は真面目な表情をしている。 「福沢博士は時間旅行を研究してましたよね」 「ああ、やってたな」 「博士は研究の結果、タイムマシンを完成させたんですよ。タイムマシンがあれば、完璧なアリバイも訳なく作れます」 「なかなか面白い話だ」渋沢刑事は冷ややかに言った。「確かに、タイムマシンがあれば可能だ。しかし、そんなバカな話、誰も信じちゃくれないさ。俺だってな」 「そうですか……そうでしょうね」  北里刑事は肩を落として、チャーシューに箸をつけた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加