この晴れ渡る空の下で

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 本来、探偵事務所に勤める私たちの業務は張り込みと尾行がメインだった。ターゲットは浮気や借金で依頼者を泣かせている不届き者。素人相手に特別な技量は必要ないが、元警察官の先輩は迷いがなく必要最低限の手数で仕事をこなす。正義感があって面倒見が良くて、私は憧れの念を、いや、かすかな恋心を抱いていた。  事態が変化したのは半年前。たまたま依頼が途切れたタイミングで所長の思い付きが発動したのがキッカケだ。 「榛名(はるな)君、卜部(うらべ)ちゃん。今日は依頼がなくて暇だし、いわくつきの廃墟で張り込みしてみない? 中に入らなくて、車から定点カメラ回すだけでいいからさ」  だれが想像していただろうか。遊びで撮った張り込み動画にソレが映り込むことを。  助手席で仮眠していた私は何も見ていないが、運転席で一人暗視カメラを眺めていた先輩は遭遇してしまった。画面の向こうから微笑む右半身だけの女に。  その時の状況について先輩は多くを語らないが、相当怖い思いをしたらしい。  けれど、世の中とは残酷なもので、所長がSNSに投稿したその動画は大バズリしてしまった。結果、私たちは月に一回は心霊スポットで張り込みを行うよう命じられてしまったのだ。  以来、先輩は夜に仮眠を取らなくなり、おしゃべり魔に変貌してしまった。  先輩は、私に仮眠を取るなとは言わない。いい年をした大人なので、そのくらいの分別はある。  ただ、夜が更けてくるとやたらめったらおしゃべりになるだけ……。ひとりにしないでほしいという強い意思は感じるけれど、本当にそれだけだ。  あれに比べれば雷など大したことではない。  私は、後輩が寝てしまったことに気付いた先輩の、何とも言えない間を思い出して小さく笑った。  不安な気持ちが透けて見える、落ち着きのない布ずれの音。車体がわずかに揺れるのは、周囲に目を配っているからなのだろう。  だけど、先輩はいつもやさしくつぶやくのだ。狸寝入りをしている私に向かって。 「おやすみ」と。
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