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「昨日の夜、中々寝付けませんでした。私はそれを、湿度が高くて不快だったからだと思いました。朝方には雷の音で目が覚めました。胸がどきどきして、のどが渇いて、怖いような地に足がついていないような、よくわからない感覚でした。
もしかしたらそれは夢を見ている時から、いいえ、眠る前から続いていたのかもしれません。全部全部、嵐のせいです」
必要以上に饒舌になっている自覚はあった。言わなくていいことまで言っている。
私は水たまりに映る空色を見つめ、視線を上げた。
「そう、思っていたけど違いました」
「え……」
「嵐は過ぎて、こんなにも晴れ渡っていて、空も木々も鮮やかで心地いいのに、私の心臓は今破裂しそうなんです。おかしいでしょ?
はじめから、天気なんて関係なかった。どう考えたって原因は――」
「俺が昨日、卜部君に告白したせい?」
先輩は私の言葉を最後まで待たずに問いかけた。
いつもなら即座に否定するのに、言葉が出てこない。それだけで、先輩は肯定だと判断した。先輩の目には自信が宿っている。警察官の勘を語る時のような確信を持っている。
頷きそうになって、私は弾かれたように顔を背けた。明らかに耳と首が熱くなっている。
「絶対変な顔をしてるんで、見ないでください」
「そんなことを言われて、引き下がる奴なんていないよ」
先輩はにじり寄ってくると、固く閉じた私の指の間に自分の指を滑り込ませた。
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