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戦勝による高揚からなのか、お酒による解放感からなのか、いつもより饒舌な陛下に時間を費やし…もとい、光栄にも御言葉をかけていただき、などと脳内で言い換えている時間も惜しい。
王宮の敷地のはずれの建物に、たしか郵務室なる場所があるはずだ。
王室周りの荷物や文書配送の一切を取り仕切っている詰所で、国中の娘たちへの招待状もそこから発送されると思われる。
御触れが明日に発令されるのであれば、既に準備がされていそうだった。
「気持ちもわかるが、添い遂げようにも余生は長かろうて」
足早に向かう途中、陛下の言葉から触発されて、死別した妻のことが脳裏に甦る。
例に漏れず政略結婚ではあったが、病弱で線の細い彼女を自分なりに大切に思っていた。
ただ、武人であるが故に遠征で家をあけることも多く、留守を任されて淋しい思いをさせていたのは間違いがない。
柄にもなく拙い手紙を妻宛に何度かしたためたりもしたが、如何ほど慰めになったであろうか。
彼女の訃報を受け取ったのも戦地であった。
容態が急変したらしく、任務の邪魔をしたくないとの妻の意向もあって、死に目に会うことすら叶わなかった。
ふたりきりの思い出も少ないままの突然の終焉であったが、次々と舞い込む再婚話に頷く気にはなれなかった。
そうして、もうすぐ齢四十にも届くところまできたのだった。
郵務室にたどり着き、急いだせいで乱れた髪と礼服を正すと、一息をついて扉をノックする。
応答とほぼ同時に部屋に入り込む。
中にいた職務従事者がぎょっとした顔で自分を迎えた。
それはそうだ、図体の大きい武臣がこの部屋に用向きがあるなどとは初めての珍事であろう。
「あー、王弟殿下が舞踏会を開くための招待状なるものはここから発送されるのかね?」
もっともそうな顔で聞いてみたが、何故そんなものに用があるのかもっともな理由がひとつもない。
「ございますが…」
ある!
遠慮がちではあるものの訝しげな視線を向けてくることに気づき、小躍りする気持ちを抑え込んだ。
「特別に招待状を手渡ししたい令嬢が」
「なりません」
ややかぶせ気味に遮ってきた。
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