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「国を守護する武臣様方に矜持があるように、我々にも責務を全うする信念がございます」 雷に撃たれたような衝撃に目が覚めた。 そうだった。 なんという器の小さいことをしでかしたのだろうか、己を恥じた。 「卿の言う通りだ、戯言として撤回させていただけようか」 郵務室の主は、文字通り胸を撫で下ろした。 体格差や腕力などから言っても、到底叶うわけもない相手に対して毅然とした態度を守った勇に、心の底から敬意を払う。 丁重に謝罪を述べると、却って相手を恐縮させてしまった。 郵務室を後にすると、肺の中の空気をすべて吐き出すような溜息が出た。 らしくない。 そもそも王室からの招待状が届かないなど不名誉なことではないか。 かつての上官であるエルカーン家に泥を塗るところだった。 エルカーン伯爵には遅くに生まれた娘がひとりいるが、世継のいない自分と同様に外野からあれやこれやと言われることに辟易すると同時に、戦友だけでなく盟友とも言える友情が育まれた。 過日、とある戦場で重傷を負い、手の施しようもないとわかると、幼い娘の後ろ盾となってくれるよう、自分に頼んだのだった。 そう、その娘、カタリナ。 今年で19を迎えた。 可憐で、笑顔は何物にも代えがたい宝石のような煌めきを放つ。 くるくると変わる表情と、時には武臣である父親から譲り受けたかのような行動力は、あどけなさとけなげさに彩られ、いつまで見てても飽きさせなかった。 間違っても、王弟殿下のお目にふれてはならない。 並み居る美女淑女を押しのけて、選ばれてしまったときのことを考えると、どうかなりそうである。 「わたし、アルベルトさまのおよめさんになるの!」 日頃から後ろ盾として援助はしていたが、任務から帰って来ると様子を見に行ったものだった。 両手を上げて抱きついてくる彼女の頭の位置が少しずつ上がってくることで、成長を感じていた。 そうして縁談があってもおかしくない年齢となり、今回の出来事はその先鋒でしかない。 王弟殿下…年頃からいったら、お似合いなのだ。 自分など彼女の父親と変わらない世代であって―― 「…!」 今、何を考えた? カタリナは娘のようなものであり、自分はただの後見人である。 この感情は何だ? 「おや、ここで何を?」 「殿下…!」
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