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<4>
考え事をしながら歩いているうちに、王宮の中庭まで来ていたようだった。
まさかこんなところで出会うとは。
祝勝会を抜け出して夜風にでも当たりに来たのであろうか。
暗がりから現われた王弟殿下は、男の自分から見ても、美しかった。
単なる優男などではなく、その礼服の下には均整のとれた体つきがあることは明白だった。
「殿下こそ、ここで何を…」
言いかけて、ふと樹木の向こうにさっと闇に紛れていく御婦人の後ろ姿が見えた。
はっとなって王弟殿下の顔を見ると、口もとに艶っぽい色がついており、貴婦人が嗜む香玉の香りがふわりと漂ってきた。
「!」
突然、わかった。
先程ちらりとよぎった感情の名は、嫉妬だ。
カタリナが浮気性な男に悲しませられる姿を見たくないという親心からくる心配などではない、絶対に渡したくないという敵愾心だ。
この男だけじゃない、誰にも。
あの笑顔を他の誰にでも向かせてはならない。
招待状が届く前に、届けねばならないものがある。
玉砕をしようとも、後悔はしたくない。
「…急用ができたようですね? ファリエール伯爵」
その声にはっとなって顔を上げると、辞去もそこそこに邸宅に戻ることにした。
もう夜の11時を回っている。
こんな夜更けに訪問するのはどうかと思うが、招待状よりも先に会う必要がある。
散々考えあぐねて、早朝7時に訪れるよう心を決めた。
手ぶらで行くわけにもいくまい。
だが、こんな時間から何を用意できるであろうか?
早く朝が来てほしいと気持ちは急くのに、準備をしようと思うと絶望的に時間が足りない。
こんな気持ちは初めてだった。
亡くなった妻を忘れるわけではないが、後ろめたさがないと言ったら嘘になる。
後ろ盾として幼い娘を託した盟友の信頼を損なうことになるのではないか、と迷う気持ちもある。
異民族から恐れられるほどの勇猛さと豪胆さを持ち合わせていると自負していたはずが、この体たらくである。
普段の果断は何処へやら消え失せて、ただの40歳の男でしかない姿に、敵陣に単騎で放り込まれたかのような心細さを覚えるのだった。
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