プロローグ

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プロローグ

何ということだろう。 北方の異民族を征伐して凱旋帰国をし、王宮で開かれた酒宴の席でとんでもないことを耳にした。 その衝撃は、手にしていた酒坏を落下させるほどであった。 王弟殿下が舞踏会を催すらしい。 国中の年頃の娘を招待して。 普通は政略的なつながりだの近隣国との外交だので幼い頃から婚約者が決められていて、そんなことはありえない。 だが、我が国の王弟殿下は違う。 自由! 奔放で気ままで前例に囚われない。 そんなことが許されるのは、現国王の治世が行き届いているからこそだ。 婚約者を定めないままふらふらと遊び呆けている年の離れた王弟を甘やかして放任している、それだけが現国王の罪らしい罪だった。 心の底から好きになるためには、身分など関係なく幅広く女性を集めて、そこから見初めたい! 王弟殿下のご意向である。 いやいやいやいや、誰も止めなかったのか? 国益が損なわれるとか、莫大な費用は財政を逼迫させるとか、何か言いようがあっただろうに。 こんなにやきもきするのは、王弟殿下の為人によるところが大きい。 眉目秀麗ですらりとした長身、多くの異性を虜にしてきたであろうその眼は深い蒼に染まり、見かけだけではなく勉強家であり知略にも長けて、兄王をよく輔けているという一見非の打ち所のない男なのだ。 だが、女性にだらしない。 あれだけすべてが揃っている男であれば、魅力的な女性が誘惑をしてくる例は枚挙にいとまがないであろうが、悪いことに全部受け入れてしまうのである。 さっさとひとりに決めてしまえばいいのに、流さなくてもいい涙があちこちで零れ落ちる。 そのうち嫉妬と憎悪によって赤い液体に変わる日も近いのでは、と囁かれていた矢先の話だ。 長年のいざこざに終止符を打とうとするための舞踏会でもあるらしい。 明日、早速国中に御触れが出るとのことだ。 こうはしてられない、何とかせねば!
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