ひどい雨

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 ――しかしそれから数十分経っても激しい音は一向に止む気配がありません。無策な略奪者にしては長すぎますし、かといって助けを求めている人というのも考えにくいでしょう。だってここからほんの数十メートル先には同じような箱があるはずですし、そういうことはスマホさえあれば全部わかるのです。私はとっくに失くしてしまいましたが…所持していた当時は肌身離さず持っていたものですから、未だにスマホがそばにあるという前提での行動をしてしまうです。恐らくほとんどの人類もそんな感じでしょうに。  ですが…………  それは本当にしつこい音でした。  私は暫く考えました。  どうでしょう。これだけ必死なのです、なのにここをこじ開けることは出来ない。ならば、箱越しに声をかけるくらいは大丈夫なはずです。  私はハンカチを拾うと、冷静を装って静かにガラスに張り付いたドアノブへ近づきました。雨の量が多すぎて、なんだかすりガラスのように相手の姿は朧気な形しかわかりませんでした。  私はガラスをそっと叩きます。  雨とドアノブを回す音に搔き消されて聞こえないかと思いましたが、何度目かのタイミングでドアノブの音はピタリと止みました。  その人は、私になにか訴えかけていました。しかし全く声が聞こえることはありませんでした。その人は、ガラスに文字を書こうとしていましたが、冬の窓に落書きするのとでは全然違うみたいでした。最終的にその人は、ガラスに文字を打ったスマホの画面を張り付けて何かを伝えようとしていましたが、肝心のスマホはすぐに電源が消えてしまって、何が書いてあったのかはわかりませんでした。
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