ひどい雨

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 いつのまにか眠って目が覚めた時、私はあまりにも酷い晴天のせいで皮膚がヒリヒリしていました。まだ確かに痛む頭を抑えた腕もちょっと赤くなっていて、早く涼しい我が家に帰りたいと思ったのです。  私はドアノブを回して外に出ようとしたのですが、昨日の人がドアを塞いで外に出ることができませんでした。  だから全体重をかけて無理やり押し続けると、やがてゆっくり脆い何かが折れる音と共に僅かな隙間が生まれます。そうなれば後はもう簡単で、左足をその隙間に挟み込んで右手をガラスの縁に滑り込ませ無理やり外に出ました。  そとの風景はいつもの通りでした。アスファルトだけの地面。真夏の色濃い蜃気楼…に見えるただの私の幻覚。  足元には半分溶けて骨すら脆くなった死体と、穴だらけのリュックが示す大きな荷物。転がる空の哺乳瓶、裸足の足、ところどころ禿げたカラス。  私は気持ちが悪いそれを見て随分気分が悪くなりました。  こんなものを見るなら死んでおけばよかったと呟いて、死体のスマホだけを拾って足早にスーパーへ向かいます。前回から商品がなにも変わっていなければ、まだ非常食は残っていたはずです。  スマホはなんかベトベトしてて、気分は最悪でした。  それでも我慢して、道中に電源ボタンをいじっていると、か弱いブルーライトが私の目を照らします。  『私は貴方の優しさを願う』  黒い文字でした。グロい文字でした。  初めてでした。こんなに雨が上がったことを喜べないのは。  この時私は確かに、精神的な頭痛も無視して逃げたのです。  私の足が震えていました。  反芻する死んだ文字が鐘のように響くのです。  人が最期にすがりついたのが私だった現実が途方もない悪意のように思えて、仕方がなかったのです。  旅人だったのか、私が知らないたった1人の町人だったのか、昨日通っていたどこかの軍から追放されたのか、そんなことはもはやどうでもよかったのです。  それらの行動全てが、私の生を助長していて、それは快晴のように鮮明で、死んでいないことを真正面から突きつけているのですから。  ただその事実だけが明確なのですから。  ~おわり~
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