恋の淵

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ある日の放課後、じめじめとした雨が降っていて、雨足が弱くなってから帰ろうと学校で雨宿りをしていた。 書物でも漁ろうかと図書室に向かっていると、廊下の向こうの空き教室から数人の男たちが出ていくのが見えた。 同じ2学年にはいない、どれも知らない顔だ。おそらく上級生らしかった。 …この時間に使われていない部屋から出てくるなんて、怪しさしか感じない。 しばらく迷ったが、好奇心が勝ち、男たちの出てきた部屋を覗きに行ってみることにした。 何か娯楽でも持ち込んでいたのだろうか。 それとも、ただ秘密のお喋りでも弾んでいたのか。 万が一変な痕跡を見つけてしまったとしても、見て見ぬ振りすれば良い。 そんな軽い気持ちで空き教室を覗いた。 最初は特に変わったものは無いように見えたが、ふと部屋の隅に膝を抱えて座っている人がいるのが分かった。 …あの髪、あの貧相な体。 立花だ。 全くの予想外な人物に、これはどういう事なのだろうと考えていると、立花が顔を上げてこっちを向いた。 髪が目にかかっていて表情は分かりにくかったが、驚いているだろう事は伝わってきた。 目が合ってしまっては無視も出来ない。 「…あー、たまたま来ただけなんだけど、何かあったのか?」 少しの沈黙の後、ゆっくりと返事があった。 「何も。」 「じゃあ、何でここに?具合でも悪かったのか?この前も登校するの遅かっただろ。」 「そういうの覚えてるの、気持ちが悪い。」 「気持ちが悪いってお前…。随分な言い方だな。」 口の悪さに、腹が立つよりも驚いた。 何でこんなに愛想がないのか不思議だ。 立花はそれ以上は何も言わず、気怠げに立ち上がった。 そのまま俺の存在なんて元々無かったかのように無視して、部屋から出ようとする。 すれ違いざまに、鎖骨の辺りに青痣があるのが見えて、思わず立花の腕を取った。 「立花、怪我してない?」 ぱちくりと目を丸くしたかと思えば、次には眉をひそめて険しい顔になった。 「してない。触んないで。」 腕を振り払って出ていった立花の背中を見送った後も、あの痣の事を考えていた。 同級生たちから揶揄われたり小突かれたりしているのは知っていた。 でも、実際に怪我をさせるような事は今までなかったはずだ。 (…だとすると、やっぱりさっき出ていった上級生たちと関係しているのか?) だからと言って俺が何かするような事でもない。 でも、さっきの一人で膝を抱えていた立花の姿が、なかなか頭から離れなかった。
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