ともしび

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 夕方になった。そろそろカレーを作る時間だ。10年前のあの時とレシピは一緒だ。あの時のカレーはおいしかったな。宇藤原小学校の生徒として迎えた最後のキャンプ。その時のカレーの味は今でも忘れていない。あれが一番の思い出だ。それにこの後行ったキャンプファイヤーも忘れられない。 「さて、カレーを作ろうか?」  上田はエプロンをかけて、すでに準備をしている。10年前と姿が変わったが、それでも懐かしいと感じる。どうしてだろう。 「あの時みたいに作ってよ」 「わかったよ」  上田は笑みを浮かべた。あの時の味を再現できるか不安だけど、やってみよう。やって損はない。きっといい思い出になるだろうから。  川にいた山崎は、あの時食べたカレーを思い出した。あの時食べたカレーはとてもおいしかったな。まるで、みんなへの愛情が詰まっているようだ。 「あの時のカレー、本当においしかったな」 「今でも忘れていないの?」  川で遊んでいる御村も、あの時のカレーを思い出した。母が作ってくれたカレーよりもずっとおいしかったな。 「うん。また食べたいなと思った」 「そう。じゃあ、頑張って作るわね」  2人は振り向いた。そこには上田がいる。まさか、上田が来ていたとは。 「ありがとう」  上田は作る前、川を見た。あの時とせせらぎが変わっていない。こんな素晴らしいキャンプ場が閉鎖になるなんて、もったいない。だけど、時代の流れなんだからしょうがない。 「きれいな川だねー」 「うん」  山崎は思った。こんな自然、都会では味わえない。山里ならではの自然だ。 「だけど、こんな自然、人々は忘れているんだね」 「うん。だけど、それが時代の流れかもしれない。人々は豊かさを求めて都会へ行く。そして田舎は寂れていく」  確かにそうだ。そして田舎は衰退していき、消えてしまう。それはまるで、時代の流れのようで、仕方ないように思えてくる。だけど、受け止めなければならないんだろうか? 「確かにそうだ」  3人は振り向いた。そこには井川がいる。3人が話していたので、こっちもその仲間に入れてほしいようだ。 「もう、キャンプ場はなくなっちゃうんだね。これも時代の流れかな?」 「そうかもしれない」  井川はため息をついた。少年時代に過ごした宇藤原が消えてしまうのは、とてもさみしい事だ。だけど、受け止めなければ。 「時代の流れには逆らえない。そして宇藤原はなくなってしまう」 「残念だよね」  気づくと、上田が消えていた。おそらくカレーを作りに行ったんだろう。どんなカレーができるんだろう。3人はワクワクしていた。  と、そこに神崎がやって来た。神崎も清らかな水を見ている。この風景を気に入ったようだ。だけど、戻る事はあるんだろうか? それが心配だ。  しばらくすると、カレーのにおいがしてきた。そろそろできるんだろう。楽しみだな。  と、そこに上田がやって来た。上田は嬉しそうだ。 「みんなー、カレーができたよー」 「はーい!」  どうやらカレーができたようだ。みんなは喜びながら、キャンプ場に戻ってきた。テーブルには鍋が置かれている。この中にカレーがあるんだろうか? そう思うと山崎は、早く中が見たいと思い始めた。  井川は中身を空けた。そこにはおいしそうなカレーがある。 「おいしそうだなー」 「うん」  上田はさらにご飯を盛り付け、カレーをかけた。4人は席に座って、カレーが盛り付けられるのを待っている。10年前と一緒の光景だ。それを見ても、懐かしさを覚える。 「いただきまーす!」  山崎の合図で、4人はカレーを食べ始めた。あの時同様に、とてもおいしい。あの時同様、愛情がこもっているんだろうか? 「おいしい!」 「あの時と一緒だ」 「10年前のあの時が蘇るよ」  みんな、嬉しそうだ。そして、10年前のキャンプを思い出している。あの時は多くの一般の人が見に来てくれた。まるで宇藤原小学校との別れを惜しんでいるかのようだった。 「あの時はそこそこ人がいたよね」 「うん。だけど、もう俺たち以外、誰も泊まらないんだね」 「ああ」  だけど、ここに来る人は誰もいない。あの時と比べて、寂しくなってしまった。あの頃の賑わいはもう戻ってこないんだと思うと、より一層寂しさを感じえる。 「みんな、どうしたの?」 「10年前を思い出したんだ」  と、そこにタエがやって来た。カレーのにおいにつられてやって来たようだ。来ると思っていなかった。5人は驚いた。 「そういえば、10年前に来たあの子たちだね」 「うん。閉鎖すると聞いて、また来たんだ」 「そうなんだ。本当は20年後に来ようと思ったんだけど、まさか10年後に閉鎖されるとは」  本当は20年後のやる予定だったとは。その時は自分はもういないかもしれない。10年後の成長した姿、できれば見たいな。だけど、こんなに生きられるかどうかわからない。 「残念でたまらないよ」 「こんなに客が少なければ、仕方ないよ。それに、宇藤原自体、住んでる人が少ないし」 「そうだね」  上田は寂しがっている。こんなに宇藤原が衰退してしまった。あと何年で、この宇藤原から人がいなくなるんだろう。 「あっ、そうだ。まだカレーあるから、食べますか?」 「うん」  上田は皿にご飯とカレーを盛り付け、タエに渡した。タエは席に座り、スプーンを持って、カレーを食べ始めた。これがこの子たちが10年前に食べたカレーなんだと思うと、感無量だ。きっと、ここで過ごす最後のキャンプ、それを思いっきり楽しんでいるようで、とても微笑ましい。 「おいしい! 10年前もこんな味だったのかな?」 「わからないけど、そうかもしれないね。それに、みんなの想いが入っているからかもしれない」 「そう・・・、かな?」  上田は照れた。自分としてはいまいちだが、なかなかみんなに気に行ってもらえたようだ。いつか神崎と結婚する事になったら、家族にこんなカレーを食べさせたいな。
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