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6
「新藤さ。そろそろ木本さん出てくるんじゃない。」
「いや、大丈夫かな~。本当に俺一人で行くの?」
「俺が後ろから見ているから大丈夫だぜ。」
日が落ちてきて、部活動が終わる時間帯になり、そろそろ木本さんが家庭科室から出てくる頃だ。新藤をそそのかして、今日は一人で木本さんに話かけるように促している。新藤はずっと落ち着きがなくそわそわしている感じだが、それ以上に自分自身がそわそわしているのを感じている。
「おっ出てきたぞ。」
木本さんが家庭科室から廊下に出てきた。そこから20mぐらい離れている自分達がいる階段への方向にちょうど歩いてきている。
「新藤。いけ。」
強い力で、新藤の背中を押す。新藤はつまづきそうになり、俺を一瞬睨んだが、意を決して木本さんの方向に歩いていく。
新藤と木本さんとの距離が1mぐらいになり、丸吉に合図を出す。
「丸吉、暗闇に展開するぞ。」
「御意っす。」
「滅私我魂界鳴闇廻」
一時的に校舎内が暗闇につつまれ、裏世界に入る術を唱えた。と同時に、妖怪に似た式神を一匹、新藤と木本さんの前に召還した。
「やばい。何ここ!」
新藤は混乱して、慌てふためいていた。作戦ではここから妖怪が新藤と木本さんを襲い、新藤が倒したように丸吉が対処する流れである。
しかし、新藤が声を発した瞬間、式神が抹殺された。
「は?」
一瞬の出来事だったが、抹殺された瞬間、世界の時がとまったように感じた。脳が混乱を必至に押さえようと原因を猛フルスロットルで探している。
「とうとう、でたな、化け狐よ。」
木本さんが、札を指に挟み、新藤の後ろに隠れていた丸吉に向かって威嚇している。いや、待てよ。木本さんが陰陽師であったことに今気づく。
「お前が転校してきた日から、違和感があったことは知っていたのだぞ。」
「いや、それは鈴華ちゃんよ、誤解だぜ。おれは純白な狸さ。」
この場面でも馬鹿を発動するのかよと、一周回って尊敬する。
「抹殺末大小射天帰」
やばい、丸吉が殺される。術式を解除する札を木本さんに投げようとする。
「待って!木本さん。」
新藤が、丸吉をかばう形で前に出る。
「お前、そいつは化け狸だぞ。」
「そんなこと、いきなり言われてもわからないよ。さっきいた妖怪?みたいなのも訳が分からないし。けど丸吉は悪いやつじゃない。僕の友達なんだ。」
「ちっ、分からねー小僧が。」
木本さんは新藤によって丸吉を攻撃することをやめた。ここのタイミングで仲裁に入るしかない。
「木本さんよ。すまなかったな騙して。」
「あーなるほど、君が絡んでいたのね。」
どうやら、木本さんは俺の事を知っているらしい。
「志賀君よ。私はあなたが陰陽師であることを知っていたよ。」
はー。なるほど嫌な感じがした理由がやっと分かった。
「で、今回、私の前に式神を放ったのは何か理由があるの?」
正直に理由を伝えても、新藤のイメージが下がるだけであり、必死に言い訳を考えることにした。
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