第9話

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第9話

 *  放課後になると、再度、川田の机周りに集合した。議題はもちろん、屋上のことについてだ。 「私と亜子と、浩平とナル。この四人でいいのね?」  確かめるように訊ねられて、みな一様に首を縦に振る。「これ以上増えたら大騒ぎになるだろうし、ちょうどいい人数かもね」  ぶつぶつ言いながら、川田は腕組みし始める。 「鍵が厄介なのよね」  早速、『屋上のっとり計画』(上杉が勝手にそうつけた)の会議が始まった。  川田の言う通り、俺たちは最初の壁にぶち当たっていた。最初のというよりも、すべての問題の原因がこれだ。 「んなもん、壊せばいいだろ?」  上杉の乱暴な物理攻撃の提案に、俺と川田は半眼になる。 「却下よ」 「絶対いやだ」 「浩平、あんたっていつも信じられないくらいバカよね」 「バカってなんだよ、バカって」  文句を言い始める上杉に、川田が冷たい視線で釘を打った。上杉は口をとがらせたあとに、「いーっ!」と川田を挑発する。すかさず川田は彼に掴みかかっていった。  あっという間に川田の口から言葉が弾丸のように発せられ、上杉は軽くあしらいながらニヤニヤしている。 「……はーい、ストップ」  俺の掛け声で、川田は上杉に噛みつくのをやめる。上杉は慣れっこなのかケタケタ笑っていた。 「とにかく! 鍵がどういうものか見に行くわよ」  明日にしようと提案する川田を、上杉が遮った。 「明日だと、放課後は俺とナルは部活だ」  上杉が俺の肩をバシリと叩く。たぶん、俺じゃなかったら青あざになる痛さだ。 「それはしょうがないけど。あんたたち、本当にまじめにバスケ練習してるの?」  上杉パンチも痛かったのだが、川田の言葉もグサッときた。  俺たちの学校のバスケ部は弱小もいいところで、それをみんな知っているから活気が足りない。  上杉は運動が好きで出席しているが、俺はサボリ癖もあって週に四回あるうちの半分しか出ていない。そもそも、部活が半強制なので仕方なく入っているだけだ。  入部しなくていいのならしたくない。家で行儀作法の練習もある。ハードな運動後でヘロヘロになったあとにそれをするのは正直きつかった。  成神をもじって、陰で『ダルカミ』と呼ばれているのだって知っている。別になんと呼ばれようとかまわないけれど。 「俺はいたってまじめにやっとる」  胸を張って言える上杉はすごい。それに彼はバスケが上手くて、コートの上では花形のポジションだ。  比べて俺は、ちっとも上達しない。  熱中できるものが欲しい。もし、そんなものがあれば。 「浩平は筋肉バカだし、運動しかできないんだからわかるけど……」  川田の含みのある視線が俺に向けられる。言葉に詰まったが、「半ば、まじめ」とおかしな返答をしていた。 「まぁいいわ。ナルは家のこともあるしね。そういえば私も明日は部活だから、もう今から見に行っちゃう?」  夕焼けはまだほど遠い。善は急げということで、屋上の鍵の様子を見に行くことが決定した。 「じゃあ、琴音とナルが行ってきて」 「え?」  俺は自分が指名されるとは思っていなくて、ぎょっとしてしまった。 「どー考えたって、俺よりナルと琴音のがいいだろ。『成神』に『川田』なんだから」  川田の反応はどうだろうと彼女のほうに向き直る。川田はちょっと考えた素振りのあと頷いた。 「それもそうね」 「じゃ、よろしく~。俺と茅野は待機だ」  サクッと決定してしまい、俺と川田は仕方なく教室を出た。  そういうわけで、俺と川田は屋上に続く埃っぽい階段を目指して進んでいる。 「ナル、見つかった時の言い訳を考えておくわよ」  ずんずんと早足で向かいながら、川田はちょっぴり不機嫌な口調だ。 「先生たちが見回りに来ることなんて、滅多にないだろ?」 「そうだけど、念のため」 「悩み相談でいいんじゃない?」  俺が適当に言うと、彼女は眉間にしわを寄せた。 「ナルの相談に、私がのっていたってことでいい?」 「逆がいいけど……俺が相談にのってもらってたってほうが、説得力あるか」  川田は村の重鎮役員の一家だ。川田の父親は、村長の次に偉いともいえる。そういうこともあって、俺の親父とも仲がいい。  必然的に、娘と息子の俺たちも小さい頃からの顔なじみというわけだ。 「そうよ。ナルは将来が決まっちゃっているせいで、ちっともやる気ないじゃない」 「そう見える?」 「誰が見てもそう見えるわよ」 「だよな」  もし、上杉や川田という友人がいなければ、俺は間違いなく一人ぼっちの高校生活になっていたはずだ。  一族は村の儀式をつかさどる重要人物。もともと、一線を画すような家柄に加えて、人と話すのが面倒な俺に普通に友達ができるわけない。  こういう時こそ、幼馴染というのはいい仲間なのかもしれない。まあ、腐れ縁ともいうが。  俺がやたらとだるそうにしていても、上杉も川田も文句を言わない。理由もきちんとわかってくれる。それは、俺にとって心地好かった。
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