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若葉は誰にでも分け隔てなく優しい。人懐っこく明るい性格は、きっと俺なんかには逆立ちしたってなれないものだし、俺にとってそれがどうしようもなく羨ましく思える。
ぼんやりとそんなことを考えていると、若葉はそんな俺の様子を横目で見遣りながら、少し遠慮がちに言葉を続けた。
「えっと……雪也くんさえ良ければ、なんだけど。一緒に帰ってもいいかな?」
「……は?」
予想外の言葉に一瞬驚いて目を丸くする。若葉はそれに気が付いているのかいないのか、少し緊張したような面持ちでこちらを見つめていた。
「今日の世界史、全然ついていけなくって……このままじゃテストだめかもって思ったらちょっと心配になって。参考書を買いたいんだけど、この前校内模試で世界史が上位だった雪也くんのおすすめを教えてほしいなって思ってるんだ」
若葉はそう言いながら、困ったように眉尻を下げて笑った。確かに俺は世界史が好きだし、一年の頃から定期試験では世界史だけは常に上位をキープしていた。しかし、だからと言って人になにかを勧めることに自信があるわけでもない。けれど、若葉が俺を頼ってくれているという事実に、なんだか少し心が浮つくような感覚を覚えるのも、また確かな事実だった。
「別に……いいけど」
俺はそう短く返事をしてから、視線を逸らした。別に断る理由もないし、なにより若葉と一緒に帰ることができるのは素直に嬉しかった。ただそれを悟られたくなくて、つい気のない態度を取ってしまう自分がいる。そんな俺の心情を知って知らでか、彼女は嬉しそうに顔を綻ばせていた。
「ほんと? ありがと!」
高くなってきた六月の青空を背景に、頬を染めて照れたようにはにかむ彼女の姿が妙に印象的で、俺はなぜだか若葉のその表情から目が離せなかった。
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