5 夏休みの約束

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5 夏休みの約束

 茹るような暑さに、額に浮いた汗がこめかみを滑り落ちていく。俺は刺すような日差しから逃れるように手のひらを頭上にかざし、太陽の光から顔を隠す。 「あちぃ……」  知らず知らずのうちに独り言が漏れてしまうほど、今日は気温が高い。特に今日は朝から日差しが強く、照り返しが眩しい。時折吹いてくる風も生ぬるいばかりで心地良いとは言えない。 (こんな日に体育の授業がなくてよかった。熱中症で倒れる奴もいるだろうしなぁ)  明日から夏休みに入るため、今日の授業は半日だけだ。明日からそれぞれの進路に関する三者面談が始まる。俺の三者面談には、中学の時と同じように施設長が出てくれるらしい。  施設長たち職員にとって、俺はあくまでも「預かっている子ども」に過ぎない。けれど、俺の進路について真剣に考えてくれ、高校に進学する時も俺の希望を尊重したいと何度も話し合いを重ねた。たくさんの愛情をもって接してくれていることも理解しているつもりだ。  家族のように接してくれるその気持ちが嬉しく、だからこそ、夢や目標という明確ななにかを見つけられないまま生きてきた自分自身が、時々無性に腹立たしくなる。 「なぁ、今年の夏はどうすんの?」 「バイトしてぇなぁ」 「お前全統Cだったんだからバイトとか言ってる場合じゃねぇだろ~」 「わかってるんだけどさぁ~」  道すがら、後ろを歩く生徒たちの笑い声が耳に入ってくる。この学校では進学組と就職組が半々くらいの割合なので、夏休みは受験を控える生徒にとって重要な期間になるが、それでも高校生最後の長期休暇に心躍らせる気持ちはよく分かる。夏休み特有の浮ついた空気を感じつつ、俺はぼうっと校門を目指して一人で歩いていく。 「あ、雪也くん!」
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