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屈託のない笑顔のまま、若葉は俺を見上げてくる。俺は息を呑んで言葉を詰まらせた。彼女の言葉が本心であることは疑いようがないし、感謝されることは素直に嬉しいが、それでもそれ以上にどぎまぎした感情の方が勝っていた。
「別に……お前が頑張った結果がついてきただけのことだろ」
ぶっきらぼうな物言いになってしまったことに少しだけ罪悪感を覚えたが、春先から向けているこんなつっけんどんな態度を今更変えることもできないでいるので、俺はそのまま若葉から視線を逸らした。
「雪也くんって照れ屋さんだよね。私、そういうところ好きだなぁ」
「!」
そんな俺の心情など知る由もなく、彼女は無邪気に笑う。心臓がどきりと跳ね上がった。
若葉の言動は、まるで俺のことが好きと言っているようにしか思えず、勘違いしてしまいそうになる。だが、それは俺の自意識過剰だ。きっと彼女の言う『好き』とは、友人としての好意を表現しているだけなのだろう。そうに違いない。
「……アホか、お前」
「ええ?」
若葉はきょとんとした顔で首を傾げた。本当に分かっていないのか、それとも分かっていてとぼけているのかは分からないが、どちらにせよタチが悪い。
とはいえ、若葉が他の奴にも同じようなことを言っているところを想像すると、少しだけ心にさざ波が生まれるような気がした。それがなんなのかはよく分からないものの、あまり良い気分ではないことだけは確かだ。
(からかうなっての……)
そう心の中でぼやきながらも、全身が熱を帯びていくような気がしてならない。それを誤魔化そうと空を見上げたが、俺の心境とは正反対の雲一つない青空が広がっているだけだった。
「でもでもっ、絶対雪也くんのおかげだってば! 雪也くん、この前の定期テスト学年十五位だったよね?」
「な、……なんで知ってんだよ」
まさか彼女が自分の成績を知っているとは思わなかったので、つい上擦った声を上げてしまう。
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