5 夏休みの約束

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 図書室で勉強していることを若葉に見られていたと知って以降、自分でもなぜか理由はわからないけれど、俺は今まで以上に勉強をするようになっていた。その甲斐もあって、今回の定期テストでは苦手な科目でも良い点を取ることができ、結果学年総合でも上位に滑り込めたのだが、まさか彼女がそれを知っているとは思わなかったのだ。 「だって掲示板見たもん」  そう口にした若葉はきょとんとした表情で俺を見上げながら小さく小首を傾げる。答え合わせができ、俺はなんとなしに息を吐いた。 「……あぁ。掲示板……」 「うん。進学科目取ってないのにその順位はすごすぎるよ。そんな雪也くんが参考書をおすすめしてくれたから、私も成績が上がったんだし……やっぱり雪也くんのおかげだよ」  若葉はそう言いながら、少し照れくさそうに笑う。彼女の言葉の一つ一つが妙にくすぐったくて、俺は堪りかねて頬を掻いた。 「まあ……それならよかったけど」 「それに、あんな風に、誰かと一緒に学校帰りに寄り道するの、久しぶりだったから……すっごく楽しかったし」  若葉はそう口にしながら嬉しそうに目を細める。その表情に、俺はまた鬱積した感情が込み上げてくる錯覚を抱いてしまう。 (なんだよそれ……反則だろ)  そんなことを言われたらどう反応していいかわからない。俺は内心動揺していたものの、それを悟られないようなんとか平静を装った。 「まあ、俺も久しぶりに羽を伸ばせたしな」 「ほんと? ならよかった!」  俺の答えに満足したのか、若葉は満面の笑みを浮かべながら大きくうなずく。ころころと表情が変わる彼女に、俺は小さく息を漏らす。 (ったく、なんなんだよこいつ……)  そんな悪態を心の中でぼやきながらも、俺は無意識のうちに笑みを浮かべていた。彼女の言動一つで一喜一憂してしまう自分がいることに気づくと、少し悔しくなると同時に気恥ずかしさを覚えてしまう。 「それでなんだけど……また雪也くんにちょっとお願いというか」 「ん?」 「夏休み、一緒にどこかに行かない?」
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