6 芸術という架け橋

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6 芸術という架け橋

 今まではただのクラスメイトだったはずなのに、どうして急にこんな展開になってしまったのか自分でも不思議でならない。ただ、なぜか嫌な気はしなかったし、むしろ少し嬉しいと思っている自分がいた。 「雪也くん、こっちだよ!」  待ち合わせ場所である東京駅に着くと、先に着いていた若葉が俺を見つけて大きく手を振った。白いブラウスに淡い水色のシフォンスカートを合わせた彼女は、まだあどけなさを残しつつも、どこか大人びた風貌をしていた。  心が浮き立つような感情をおさえつつ、俺は軽く手を挙げながら彼女の方へ小走りで向かう。 「ごめん、待ったか?」 「ううん全然! 私もさっき着いたばっかりだから」  若葉はそう言って笑うが、その額には少し汗が滲んでいるようだった。この暑さの中ずっと待っていたのかもしれないと思うと申し訳なくなる反面、俺のことを待っていてくれたという事実に嬉しさも感じる。  今日は八月に入って最初の日曜日だ。約束していた通り、俺たちは二人で街に遊びに行くことになった。といっても、主に丸の内付近の美術館を巡るという予定しか立てていないので、具体的な目的地があるわけではない。 「ネットで調べたらこの辺だと三菱一号館美術館が有名らしいから、とりあえずそこ行ってみたいなと思ってて」 「あ~、その情報俺も見た。あと、出光美術館とかは? 陶磁器の色彩とか、いいインスピレーションになるんじゃねぇかなって思ったけど」 「たしかに! じゃあそっちも行ってみたいな」  俺がスマホで地図を確認しながら提案すると、若葉は目を輝かせて大きく頷いた。その動作に合わせ、彼女の結われていない黒髪がさらさらと揺れていく。東京駅から徒歩圏内にあるこの一帯は、日本の玄関口ということもあり、様々な商業施設やオフィスビルが立ち並ぶエリアでもある。そのせいか人も多く賑わっていた。 「じゃぁ、行くか」 「うん!」  スマホをポケットにしまい込み、俺が目の前の横断歩道に向かって歩き出すと、若葉は嬉しそうに俺の隣に並ぶ。俺は彼女の歩幅に合わせて歩く速度をわずかに落とした。
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