6 芸術という架け橋

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 学校でも普通に会話しているのに、こうして私服姿で二人で出かけるというのはまた違った感覚だ。いつもとは違う場所に行くという非日常感もあるのかもしれない。それに――今日はデートなのだという事実が、余計に俺の鼓動を逸らせる。 (なんか、緊張するな……)  今まで女子と出かけることなんて施設の子たちとでもほとんどなかったし、ましてや誰かと二人で出歩くことなど全くなかったため、今日は一体どんな服が適切か分からず少し悩んでしまった。結局無難にTシャツとジーンズに落ち着いたが、本当にこれでよかったのだろうかと不安になる。 (……化粧とかもしてるし……普段と雰囲気が違うんだよな)  ちらりと隣を歩く若葉を観察しつつ、俺はこっそりため息をついた。彼女の華奢な首元には小さなネックレスが光り、耳には雫の形のイヤリングが揺れている。その姿は学校で見る姿とは少し違って、なんだか新鮮だった。  少し進むと、レンガ造りの重厚感あふれる外観の建物が見えてきた。 「あ、あれかな?」 「多分そうっぽい」  想像していたよりも大きな建造物に圧倒されながら入り口へと向かって歩いていく。案内板には常設展と企画展が並んでおり、どうやらこの美術館では定期的にテーマに沿った特別展を開催しているらしい。俺たちはまず常設展から見ることにした。  入ってすぐのホールには巨大な絵画が飾られており、それらの優美さに圧倒されてしまう。展示されているのは西暦一八〇〇年前後に描かれた絵画で、当時活躍していた画家たちの作品が多いようだ。 「これ、ナポレオンが生きていた時代の絵なのか」  幼子イエスを抱く聖母マリアを描いた宗教画や、革命を導いたナポレオンの戴冠式の様子が描かれている絵画は、当時の空気や雰囲気まで伝わってくるようだった。見ているだけで時間を忘れてしまいそうだ。明確な線と形、そして鮮やかすぎない色彩で描かれたそれらの風景は、まるで写真のようなリアリティがある。肌の質感や、光の当たり方など、細やかな部分まで緻密に描かれているのが印象的だった。
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