6 芸術という架け橋

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 展示されている絵画を一つ一つ目に焼き付けるかのように眺めていく。他にも彫刻や写真などが展示されていたが、どれも迫力があり見応えがあった。不思議となにを見ても鑑賞のペースが合うため、俺たちは美術館内をゆっくりと歩きながら作品を一つ一つ鑑賞していった。  芸術に触れて生き生きと輝く若葉の表情を見ていると、自分の心も満たされていくようだった。普段はあまり意識しないが、芸術というのは人の心を豊かにする力があるのかもしれない。 「すごく楽しかった!」  美術館を出た後、若葉は晴れやかな笑顔でそう口にした。俺も同じ気持ちだったし、彼女と過ごす時間は本当に楽しいものだった。 「俺も、楽しかった」  俺自身、特に芸術に興味があるわけではないので知識はなかったが、不思議と見ていて退屈しなかったし、むしろもっと見ていたいと思うほどだった。  素直な感想を口にすると、若葉は驚いたように俺を見上げて瞬きをした。そして照れたように視線を逸らす。 「本当? よかったぁ……私ばっかり楽しんじゃってたらどうしようって思ってたから」  安心したように胸を撫で下ろす若葉につられて、俺も口元を緩める。今日という日が彼女にとって良い思い出になってくれたのなら嬉しいと思った。それと同時に、もっと彼女のいろんな表情や仕草を見てみたいという気持ちが湧いてくる。 「よし、じゃあそろそろ次行くか」 「うん!」  俺の言葉に、若葉は大きく頷いた。その瞬間、ぐぅ、と、彼女のお腹から可愛らしい音が鳴る。その音に若葉は赤面し、恥ずかしそうに目を伏せた。 「えへへ……おなか鳴っちゃった……」  照れ笑いを浮かべながら、彼女はお腹を擦る。もう昼の一時近くだ。俺は腕時計を確認しつつ口を開く。 「どっかで飯食うか」 「うん! 行こう!」  若葉は元気よく頷くと、東京駅の方向に向かって歩き始める。その足取りは軽やかで、今にもスキップでもしそうな勢いだ。子どものように無邪気なその姿に、自然と頬が緩んだ。
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