2 意外な誘い

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『普通』でないと自覚している俺の深層意識では、きっと誰かに嫌われることがひどく恐ろしいのだろうと思う。だから俺は、いつの間にか自分の心を他人から隠そうとするようになっていた。感情や本音を心の奥底に仕舞い込んで、なるべく表に出さないようにしてきた。それがたとえ簡単な挨拶程度だとしても、他人と関わることはそれだけで俺には荷が重いのだ。  だからこそ――彼女のその太陽のような笑顔は、俺には眩しすぎる。あまりにもキラキラ輝いていて、時折息が詰まりそうになってしまう。  昼休みともなると多くの生徒が各グループごとに机をくっつけ合って談笑をしているが、俺はいつも一人だ。忘れ物をしても若葉のように頼れるほどの仲がいい友人がいるわけでもないし、授業でペアを組むよう言われても結局余った奴と組むことになることが多い。別に普段から一人でいることに特に不満があるわけでもないし、かと言っていじめや無視に遭うわけでもないのでまったく構わないのだけれども。 (なんか、今日はやけに眠いな)  昨日は夜更かしをしたわけでもないのに、なんだか頭がぼんやりとする。それに少し息苦しさを感じるような気さえした。風邪でも引いたのだろうか。  眠いのは朝目覚めた時からずっとだが、今日は妙に視界が霞む。それに、一時限目で配布されたレジュメで指先を切った時の血がなかなか止まらない。昼休みが終わった今もなお、張り替えた絆創膏に血が滲み出ている。  目の前の指先を眺めながら机に伏せていると、ガラリと軋んだ音を立てながらドアが開かれていく。立ち話をしていた女子たちが慌てて席に戻っていくのを視線の端で捉えながら、俺はゆっくりと上半身を起こした。 「おーい、授業始めるぞ~」  数学の教科書を手にした教師が気の抜けた声で教室内に呼びかける。数席右斜め前の若葉が机の横にかけた鞄から教科書を引っ張り出そうとしているのが見えた。その様子を観察していると、不意に顔を上げた彼女と視線が絡み合う。その刹那、俺は反射的に視線を逸らしてしまった。 (……今の、ぜってぇ変に思われた)
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