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それに、学校の図書室の方が資料や参考書が豊富で勉強しやすいからということもある。ただ、今日はなんとなく気が乗らなくて、そのまま帰ることにしただけだ。
「別に、毎日図書室で勉強してるわけじゃねぇよ」
彼女に秘密にしているわけでは無くとも、それがなんとなく気恥ずかしくて俺は若葉の言葉につっけんどんな調子で返事を返す。
「そうなんだ」
若葉はそう短く返事をしてから、どこか少し照れくさそうに微笑んでいる。彼女のその笑顔に、また心がざわめくのを感じた。
(……なんでこいつ、こんな嬉しそうな顔してんだろ)
俺は特に面白いことを言ったわけでもないし、むしろ素っ気なく乱雑な返事だったと思う。なのに彼女はどうしてか嬉しそうな顔をしているのだ。その笑顔にまた心が弾むのを感じながらも、俺はそれを悟られないように小さな咳払いで誤魔化した。
「そういうお前は?」
「私? いつもは部活がお休みの時は友達と一緒に帰ってるんだけど……今日はその子用事があるみたいで」
「……ふーん」
つまり、今日は一緒に帰る相手がいないから俺に声をかけたということなのだろうか。俺はちらりと横目で若葉を見遣る。彼女は特に気にした様子も無く、にこにこと笑いながら隣を歩いている。
俺は昔から人付き合いが苦手だった。施設の先生たちと打ち解けるにもずいぶんと時間がかかったらしい。らしい、というのは中学を卒業するときに施設長から聞いた話だからだ。
先生たちは俺をなにかと気遣ってくれたし、孤児である俺の生活を色々とサポートしてくれた。そんな環境に甘えていたからだろうか、俺はいつの頃からか人との距離の取り方がよく分からなくなっていた。学校でも特別嫌な思いをしたわけでは無かったのだけれど、それでも人と関わることが億劫だと思うようになってからは、自然と人付き合いが減っていった。それこそ、高校生になってからはろくに話したこともないクラスメイトが大半を占めているくらいだ。
けれど、なぜか若葉はそんな俺とでも普通に接してくれるから、俺もつい気を許してしまう。
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