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*12 わかり合えた喜びを、わかちあう
夏の休暇ではない梅雨のシーズンに無理にアキに休暇を取らせたため、病院を出てすぐにふたりは帰路につく。特急に乗り、新幹線に乗ったところでようやく一息つけた。
「はー……お疲れ、ユズ」
席について列車が動き出してしばらくした時、アキがノンアルコールの缶ビールを差し出す。よく冷えたそれのプルトップを開け、共にひと口飲み干す。
口中に広がる苦みを美味しいと思える大人になって久しいが、今日は格別に苦くて美味い気がする。
夕食代わりの晩酌なので、つまみも少しボリュームのある物をチョイスしたらしく、アキが次々とテーブルの上に広げる。黙々とそれらを口にしていた時、ポツリとユズが呟く。
「ありがとね、アキくん、本当に」
「うん、まあ、でもよかったね、ちゃんと話せたし。それに、俺らのことちゃんと認めてもらえた感じで」
「まさかパートナーシップの話をしてくるとは思わなかったな」
「きっと、お父さんなりに勉強してくれたんだね、俺らのこととか、その周りのこととか」
「うん……もう少し、早くわかってたらなぁ……」
なんでいまなんだろうな、と呟いたユズの目許が揺らぎ、ぽつりと雫が落ちる。ユズはそれを拭ってないものにしようとしたが、アキがそっとその目許と頬に触れて撫でてくれる。
ユズはそれでも何とか微笑もうとしたが、上手く笑えず、うつむいて手のひらで顔を覆い、しばらく小さく嗚咽していた。その震える肩を、アキがそっとさすっていてくれたことが、ユズには何よりの安心材料であった。
もう一つユズがアキのことで嬉しく思っていることは、父とわかり合えてよかったね、とあえて言わなかったことだ。当事者のふりをして上からの視点で事態を評価されているとなると、きっとユズはアキへの信頼感や想いが揺らいだかもしれない。アキがそんな振る舞いをしなかったのは偶然ではなく、きっとユズの考えを理解していたからだろう。
こうしてユズは父とのわだかまりを解くことができ、心残りを払しょくすることができた気がした。
都内に着く頃にはユズの気持ちも落ち着き、多少目許は赤くしていたが、晩酌も楽しむこともできたようだ。
そうして地元の駅に到着し、そこからは久しぶりにタクシーで家まで帰宅した。
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