離雨の声

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ふざけるな 私を置いて逃げる気か 散々部屋に閉じ込めて 病気になるような物ばっかり食わせやがって 全てお前のせいだ 責任を取れ  私の人生を返せ 私がつかみかかると、母は力なく玄関先に倒れ込んだ。 私は母に跨り、スカーフの両端を掴み、思い切り引く。 母は驚愕して、目を動かし、膝を立てようと暴れた。 私は手に更に力を込める。 許さない 私のメガネが水滴でぼやける。 雨なのか、汗なのか。 母の顔がどす黒く変わり、やがて胸の動きがやんだ。 動かなくなった母に馬乗りになったまま、しばらくたった。 近所に騒ぎが聞こえていたのか、警察官が2人来て、私を押さえつける。 女1人に大の男が2人がかりだ。 母の食事のせいで私がひどい巨体だからだろうか。 警察が強い口調で私に何か質問してくるが、私は言葉が話せない。 あぁ、とか、うぅ、とか口から漏れるだけだ。 10年前、雨の中鳴いていた子猫がかわいそうで家に持って帰ったら、猫嫌いの母が驚いて私にぶつかり、私はその拍子に玄関の戸口に頭をぶつけ、打ちどころが悪く言語障害が残った。 何才になっても周りと同じように話せない私は、学校や近所で陰口の標的にされ、徐々に外に出られなくなった。 それだけなら、まだ良かった。 私が引きこもっている理由を、母は、 私の性格が内気だから、 と周囲に言いふらし、自分を守り続けた。 そう、つまり、母が全て悪いのだ。 私たちを激しく打ちつけていた雨が弱まっていく。 両脇を抱えられ、のろのろと立ち上がった私に手錠がかけられる。 どこからか、雨宿りしていた猫が一匹、私の行く先を遮る。 私を見上げて、「ニャア」と不思議そうに鳴いた。
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