離雨の声

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娘を見たのは10年ぶりだった。 戸口の奥から、玄関先の私を無表情で見つめている。 娘は長い間1人で部屋で過ごし、扉越しに無事を確かめる日々が続いていたけれど、すっかり大きくなっていた。 土砂降りの夜、どこかで猫が鳴いている。 私が急いで出ようとした瞬間、娘が奇声を発し裸足のまま勢い良く抱きついてきた。 いや、覆い被さるという方が正しい。 成人した娘の体は私には大きすぎて、バランスを崩して後ろに倒れこんでしまった。 いつの間にこんなに力の差ができたんだろう。 あんなにか弱かったのに。 娘は何か喚きながら私に跨り、私が首に巻いていたスカーフをつかんだ。 そして力いっぱい引く。 途端に息ができなくなり、驚きと恐怖でパニックになる。 娘は必死の形相で何か訴えかけている。 でもわからない。 とにかく苦しい。 雨なのか汗なのか涙なのか、不思議な感触の液体が頬を叩きつける。 意識が途切れて行く。 私はあなたを愛している。 今、大嫌いなあれを追っ払って来るだけだから…
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