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第10話 衰弱する青龍
梅雨が明け、猛暑の夏がやってきた。
水七子は、ひとつ気がかりなことがあった。
「新山さん、最近店長の様子が変じゃないですか?」
「なに、どういうこと?」
「なんかピリピリしてて、話しかけにくくて…」
「あぁ、あれかな?この前本社の人が来ていて、いろいろ厳しいこと言われたみたいよ?利益のこととか、管理面のこととか…って事務の人が話してた」
「結構繁盛してそうに見えるんですけどね」
「経費がかかり過ぎてるらしいの。店長、妥協を許さない性格だからね」
情報通の雪恵のおかげで概要は掴めた。
「だからかな?青龍さんが弱ってるの」
「えっ!それは一大事っ。夏バテ?」
竜も人間と同じように夏バテする、なんて考え方に、クールな虹龍がクスッと笑う。
「青い場所へ行きたいって…それと水がいっぱいあるところ」
「大変!それ店長に伝えたほうがいいんじゃない??」
「だけど最近出会わないし…」
「確かに、本社へ会議に行ったりしてるみたいだわ」
「先週新山さんが休みの時なんてほんと別人みたいで…」
前週の週末。
ペアの雪恵はシフト休みの日で、水七子は朝からひとりで庭の手入れや、植物の世話をしていた。
普段休みのことが多い店長が珍しく出勤日で、スタッフの数も少なくいつもよりのんびりした雰囲気の土曜出勤の中、青龍付きの店長と少しでも何か話せたら、と若干心待ちにしていた。
相変わらず虹龍はさほど青龍には興味がない様子だが。
「あ、てんちょ…」
出入り口でたまたま一緒になり声をかけようとするも、店長の長野は冷たい目をしており、からだ全体で他者を拒むように無言で去っていった。
(青龍さん、どうしたの??)
ついている竜は覇気もエネルギーもなく、衰弱しているのが感じとれた。
(青い場所…水のある…ところ…)
(そこに行けば生き返るのね??)
日頃と態度の違う店長と、弱った青龍を水七子はただただ心配することしかできなかった。
店長とその日は結局会うこともなく、あれから数日過ぎていた。
「だけど、そのことを店長に伝えて、青龍を救うことができるのは風浦さんだけじゃないの??」
「そう…ですよね…、だから気が気でないんですよっ。早く伝えないと、このままだと青龍さんが消えてしまうかもしれないし」
「えっ、そうなの!?」
「見守ってる竜付き人が必要な場所を訪れてくれたら回復できるけど、そうでなければ青龍は自分の身を守るために、店長から離れて竜自身のパワースポットである程度の時間過ごすことになるから…」
「てんちょー、何があったのよぅ」
竜大好きの雪恵も本気で心配している。
チャンスは、その日の夕方やってきた。
一日の業務が終わり、帰宅時。
偶然店長も一緒になった。
竜付き人三人衆、集結。
「風浦さん、今よ、今がチャンス!」
「えっ、でも、いきなり竜弱ってますなんて言ったら、私変なヤツだと思われない??」
「店長は竜の存在を信じてるから大丈夫よっ」
「だって、先週みたいに全拒絶みたいな感じだったら…」
「その時はその時よ!食らいついていけばいいの!」
フレー
フレー
ドサクサに紛れて、銀龍はどこから出したのか旗を振ってエールを送る。
(ぷっ、銀ちゃーん。なんておちゃめな竜)
この話をしたら雪恵は爆笑だろうな。
後で教えてあげよう。
そんな事を考えていると、雪恵が長野に声をかけた。
「店長!青龍さん弱ってるらしいですよ」
(あれ?)
その時水七子は気付いた。
「新山さん、青龍さん復活してる」
「えっ、そうなの??」
「店長、先週末青龍さん弱ってて、青くて水のある場所に行きたいって教えてくれたんです。店長も別人みたいになってたし…でも店長もいつも通りになってますね」
長野はしばらく空を見つめ考えていた。
「あー…先週は本社の人間とちょっとやり合って…確かに自分を見失ってたね。で、これではいかんと思って昨日有休とって海に行ってきたんだ。で、食事したレストランが青い店だった」
ビンゴ!
「店長は、無意識に青龍の声を拾ったんですね」
「そうだね、なんか無性に海をみて、その店で食事したいと思ったんだ」
文字通り水を得た魚のように、
復活、再生した青龍は力みなぎり
長野の身についていた。
突然どこかに行きたくなったり
憩いの水辺を求める時は
もしかしたらあなたの竜が
そこへ行きたがっている合図かもしれませんね。
それにしても青龍…
元気になってよかった!
前述の通り、竜と竜付き人は一心同体。
竜付き人の厄災を受け、強大な力を持つ竜も
身代わりになり衰弱してしまうことがある。
人も竜も時に、心身リフレッシュのメンテナンスが必要です。
時には心地よい場所で、のんびり過ごしましょう。
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