15人が本棚に入れています
本棚に追加
第15話 竜女、腹がへる
8月8日竜の日から数日過ぎ、世間はお盆休みの期間に突入した。
しかし清流園芸は生きた植物を取り扱う仕事ゆえ、必ず誰かは出勤しないといけない。
交代で休みをとるシフト体制になっていた。
祝日の月曜、この日水七子は出勤していた。
店長もいた。
青龍は時折広い空に散歩にいき、英気を養っている。
どうやら空から高層の建造物や街並みを眺めるのが好きらしい。
「店長」
「ん?」
「最近、元気ですか?青龍は自由にリフレッシュに出かけてますけど店長は、ねぇ」
遠まわしにカマをかけたが、店長長野には響いたらしい。
いつも笑顔でいても水七子の瞳には、心ここにあらずの、怒りや疲労の感情を抱えた長野が時折映っていたのだ。
「ははっ、あなたすごいね。ポーカーフェイスを貫いてるから、誰も僕の変化に気づかないのに」
「やっぱり、私にはお見通しですよ。この前パワースポットでチャージしてきましたから」
おどけて言うと、長野はぷっと笑った。
「いいね、なんか元気もらえた。今度人生相談しようかな」
「いつでもどうぞ。タロットも試したいって言いながら全然じゃないですか」
「ははっ、ちょっと仕事が詰まっててね。また頼むわ」
去りゆく後ろ姿を眺め、水七子はいつも思う。
何か、この人の力になりたい
と。
それは長野が青龍の竜付き人だからだろうか
それとも
長野自身の人柄に惹かれているのか
感情揺れる水七子だった。
(惹かれる!? あのおしゃべり青龍付き男にか!?)
おおっと!? 虹龍乱入
(あ、いや、その変な意味じゃなくて…なんかおもしろいというか、占い好きだし、女子みたいで)
(竜女を目指せとは言ったが、男運の悪さは身につけなくてよいぞ。あの男、私はいけすかない。純粋な竜女は人が良すぎて相手に尽くすから、ダメ男製造機になりがちなのでな)
ははっ、ダメ男製造機とは
(はい、気をつけます…)
グゥ~
まただ
最近すぐお腹が減る
こうも暑いと食欲をなくす人も多いが、
水七子は一切なく、むしろお腹が減りまくる。
紫龍がエネルギーを必要としているのかもしれない。
この前はお水も異様に飲んだし。
それにコウちゃんがよく話しかけてくるようになって、交信が増えたからかも。
虹龍が言うには、異次元の世界との交信は体力気力ともに消耗するから、よく食べてよく眠れ、とのことだった。
ランチタイム、手作り弁当を持参。
竜といると食も自然派志向となり、身体が添加物などをあまり受け付けない。
なのでできるだけ毎日自炊している。
飲み物もペットボトルの市販のものではなく、水筒にこだわりのコーヒーやお茶、水を用意する。
大きなわっぱのお弁当箱。
木でできているので、これも自然派。
今日のメニューは、ゴーヤと豚肉のピリ辛ラー油炒め、あおさのだたまご焼き、ゆかりご飯、きゅうりと大根のぬか漬け。
「おいしい」
自分で作っておいて自画自賛だが、やっぱり米や和食はいい。気力も補給してくれる。
新鮮な野菜を使ったおかずや、いい水を使って作られた米は、竜も喜ぶメニュー。
たくさん食べてもこの暑さの中身体を動かし、水やりや場所の移動、庭園の草抜きなどをしていると、午後のおやつ時にはもうお腹が空いてくる。
「とりあえず水分補給しよう」
休憩室に戻り冷たくひえたお茶を飲んでいると、再び長野と遭遇。
「あっ、ちょうどよかった」
「おつかれさまです。何がですか?」
「今日は仕事だいぶ片付いたから、占いやってもらいたんだけど、いいかな?」
「あっ、ダメです!」
「えっ、今忙しかった?? それなら別の日でも」
「そうじゃなくて、あーの、今めっちゃお腹すいてるから力が出なくて!占いする時はエネルギー使うから、お腹すいてると私ダメなんですっ」
一瞬きょとんとした長野は、空腹を力説する水七子をまじまじとみて、すぐに爆笑しだした。
「ぷっ、あははっ、そういうことかー。ちょっと待ってて」
一旦その場を離れた長野は、すぐに手提げの紙袋を持って戻ってきた。
「これ僕のおやつ箱。好きなの好きなだけ食べていいよ」
中には大量のお菓子、特に甘い系が山ほど入っていた。
「僕もお腹すくとダメなんだー、力出ないし頭まわらなくなるんだよ。もしかしたら、竜付き人って大食いなのかな」
「竜の分も食べて飲んでるかもしれませんね」
ふたりは遠足の子供のように、仲良くお菓子をわけあった。
最初のコメントを投稿しよう!