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第17話 お盆明け、ちょっと怖い話
「風浦さん…私なんか、みえるようになってきたかもしれない。竜とか、この世の人ではない存在とか」
「えっ!? そうなんですか??」
お盆といえば8月13日〜15日。
ご先祖様をお迎えし、感謝の気持ちでもてなしお帰りを見送る、仏教的儀式。
お盆明けの16日、ふいに雪恵が言った。
「朝出勤してタイムカード押しに事務所に来たら、部屋の隅に見たことない男の人が立ってたからてっきり新しく来た人かと思って。でも朝礼の時になんの話もないから事務の人に確認したら、そんな人はいないって…ゾッとするんだけど!」
「確かに私もそんな人みてませんね…」
「で、でも!朝礼にもちゃんと参加してたのよ、制服のエプロンもつけてたし…。それにね、さっき目の前に銀色の尻尾がみえたの!一瞬だけど…あれは銀ちゃんなのかなって思って」
「そうですね、間違いなく銀ちゃんです。すごいすごい!尻尾みえたのなら、銀ちゃんと会えるのももうじきですねっ」
「銀ちゃんはいいんだけど…なんなのよあの男の人は〜。私以外誰もみてないなんてどういうこと??」
「あれですかね、銀ちゃん、青龍さん、コウちゃん、それに紫龍の力が加わって、異次元の世界とつながりやすくなったところに加え、私の霊能力に感化されて新山さんも不思議な力が目覚めたとか!」
「竜がみえる分にはいいけど、この世の存在じゃないおばけ系は遠慮するわ~。いくらお盆明けだからってそんな話」
今まで知らなかった世界。
ずっと興味を抱いていたけれど、いざその世界に足を踏み入れそうになると躊躇してしまう。
大抵の人はそうだろう。
「なんかさ、一度そっちの世界に足を踏み入れてしまうともう今までのような平穏な生活ができなくなる気がして、怖いのよね」
「そうだと思います。私は子どもの頃から周りの人がみえない世界がみえるのが当たり前だったから抵抗ないけど、ある日突然だったらビックリするでしょうね」
「それにあれでしょう?普段はスイッチオフして意図的にみないようにしてるのよね。でないと疲れちゃうものね、きっと」
えぇ、まさにその通り
その日は悪天候で土砂降りの雨。
庭園の手入れや水やり作業がないので、事務所で内勤を手伝っていた。
交代でお盆休みをとっているので、事務所も閑散としている。
店長長野も休みなので、青龍も不在。
とそこへ、営業の山石がやってきた。
この男、年齢は40歳。独身。
頭の髪の毛が薄く、そのため実年齢より老けてみえる。
外面が良い反面、社内では愚痴や不満をこぼしまくり、ネガティブで負のパワーが強いため、迷惑がられている存在(雪恵情報)
この日も店長不在をいいことに、日頃の文句をこぼしまくっている。
要は自分より年下の店長にあれこれ言われることが気に入らないのだが、直接本人に言えない小心者なのだ。
「あの人、店長が気に入らないからって口もきかないから、用事があっても私たちに言ってくるのよ」
「はは、大人げない。だから毛がないんですかね」
「ぶっ!うまいこと言うのね、あははっ」
山石に聞こえないところで、こちらも言いたい放題。
水七子は結構辛口で毒舌だ。カラッとサラッと言う。
「私は事実を言ってるまでなので」
虹龍には美しい日本語を話すよう諭されるので、嫌味や悪意のない上品な辛口を心がけている。
それに比べ…
「山石さんは負のオーラ強すぎますよね」
「そうよ、感情すぐ出すのやめてほしいわ。事務所の空気を一番悪くしてるのあの人なのに、店長のせいにするんだもんね」
気心知れた相手と電話をしているのだろう。
受話器を片手にブツクサブツクサつぶやいている。
えっ
なにこれ
ゾクッ
水七子は感じた、
不穏な空気を。
雪恵が話していた場所、
事務所の片隅で。
開いた
この世と別の世界をつなぐ場所
夏なのに、背筋が凍り、鳥肌がたつ。
なにかいる…
意識にロックをしていても
みえざるものの力が強ければ
感じとってしまう。
誰だ…
水七子の脳裏には、
ラベンダー色の服を着た
老婆の姿がみえた。
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