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第2話 試練と苦労
竜につかれる人は、意外と試練と思われる出来事や、苦労の多い人生を歩んできたことが多い。
これは竜の試練とも呼ばれ、後の大きな成功の前に、痛みや苦しみを味わうことで魂が磨かれ、より一層人間として成長できるからである。
例えていうなれば獅子の崖落とし。
愛する我が子をたくましく育ってほしいがゆえに崖から落とす獅子の愛情そのもの。
なので、自分の人生ツイてない。
いいことなんてない。
なんで自分ばかりこんな目にあわなくちゃいけないんだ。
そう思っておられる方。
私には竜なんてついてるはずがない。
なんて決めつけるのは時期尚早です。
それは、竜があなたを鍛えるために、あえて起こしていることかも知れません。
ということは逆に言えば、いつも竜に見守られている証拠なのです。
どんな逆境でも心腐ることなくハードルをひとつひとつ越えていけば、
竜の試練をクリアした者として、
あなたも竜付き人として、輝かしい人生が待っていることでしょう。
水七子も、苦労の多い人生を過ごしてきた。
まだ30代前半ながら、転職を繰り返しているのもそのひとつだ。
彼女は、幼い頃から他の人が見えないものが見えていた。
巫女の家系で、竜も当たり前に見えていた。
「この世の中にはね、竜につかれている、竜付き人という人がいるの。それは人として正しい道を歩んでいるから、竜に選ばれたのね。竜付き人は魂の次元が高いから、そうでない人とは相性が悪いから、孤独を感じたり、息苦しい思いをすることもあるかもしれない。でもね、あなたにはいつも竜がついてるから、本当はさみしくないのよ。だから胸をはって、誇りを持って、世のため人のために生きることを忘れないでね」
遠い昔、母親にそう教えられた。
物心ついた頃から、水七子には虹色の竜が側にいた。
日によって色が変わることもあり、キラキラした美しい竜。
「虹龍は特別な竜。あなたはきっと、人とは違う珍しい人生を歩むわね。でもそれでいいの。あなただけの生き方を探していきなさい」
そう告げてくれたのは、母親についている薄桃色の竜。
優しいやわらかな空気に包まれた、とても穏やかな瞳をした竜。
学生時代も、社会に出ても、水七子はその場になじむことができなかった。
周りに竜付きの人がおらず、THE・人間の我欲が渦巻く世界は耐えられなかった。
陰口や足の引っ張り合い、不満、不信が渦巻く中で、清廉潔白でいることは至難の技。
おまけに、そういう人間は排除されやすい。
前職でも、いいように会社にこき使われた挙げ句、存在が邪魔になってくると難癖をつけられ、パワハラで自主退職に追いやられた。
「これは…世の中いろんな人間がいることを見ておけっていうことなの?」
虹龍はコクッ、とうなづいた。
水七子の虹龍は、基本無口だ。
クールビューティ、愛想はあまりよくない。
誇り高く気高く、簡単になびかない。
そんな虹龍を水七子は親しみをこめて
コウちゃん♪
と呼んでいるが、
リアクションがないのであだ名で呼ばれることをどう思っているかはわからない。
とりあえず、拒否反応はされていないから良しとする。
苦しい時は、自分の竜に意識を合わせる。
必要な時は、自分を包むようにして、温かい心地よい空気で癒してくれる。
竜はやさしい生き物だ。
自分が見守っている人間に試練を与えることに胸を痛めたり、
落ちこんだ時はそっと近くにいて、心配してくれる。
まだ竜を見たことがないという人も、
悲しい時、元気がないときに
ふわっと、風を感じたら
それは竜の吐息。
あなたのそばにはきっと、
見守っている竜がいるのです。
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