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第20話 台風と竜
「台風、近づいてきたわね」
風が強くなり、打ちつける雨音。
雪恵と水七子は職場の鉢植えなどを片付けていた。
今回の台風は超ノロノロ台風。
人が歩く速さくらいのスピードで、日本列島を横断している。
「竜は雨を降らせる生き物でもあるでしょう?龍神として崇められる一方で、人に災いをもたらすこともあるのはなぜかしら」
「そうよね、そう思うわよね。それについては青龍さんが教えてくれたわ」
「店長についてるあの青龍さん?」
コクッ
水七子はうなづく。
古参の竜世界の生き字引、青龍曰く
(災害級の嵐を呼び、人々を苦しめるのは荒ぶる竜。我々のように人につき、文字通りツキを呼ぶのは守護竜。龍神といってもひとくくりにできるわけではなく、別の存在)
「…らしいです」
「つきツキって変なダジャレ言ってるのが青龍さんらしい。オヤジギャグw」
虹龍苦笑い
若い紫龍は妙にウケている。
箸が転がってもおかしい年頃ってやつか
「荒ぶる竜っていうのは、要は普段は自然界にいる人に懐かない孤高の竜らしいけど、人間が自然の恩恵を忘れ、神々への感謝もないがしろにし驕り高ぶった行いを続けると、その怒りをあらわにするのだそうです」
「なるほど…たしかにそうよね。私達みたいに竜を愛し自然精霊を敬い神々を尊ぶ人間は今や稀かもしれない。世界中で争いは続き、環境破壊、自然破壊は年々加速している。今年は日本でも気温が40度近い猛暑日の連続。それも過去のフロンガスやCO2のが排出による温暖化が原因だものね。人類は自分で自分たちの首を絞めてるわけで」
「天気が崩れる前になると空に雨降らしの自然竜や風を呼ぶ竜、雷の日は雷光竜が浮かんでるの。通常はそれぞれが単独行動をしているのだけれど、大嵐となるとその竜達が結束してぐるぐるまわって大暴れする。それが台風なんです。イメージはNHKの朝ドラの虎に翼のオープニングアニメーションで主人公の寅子たちが手をつないで輪になって踊ってるアレです」
「えー!そうなんだ!風浦さんにはそれがみえてるの??」
「そうですね」
「いいなぁ~私もそんなふうに竜の姿みたいみたい!」
「いつかみえますよ。銀ちゃんもそう言ってる」
(雪ちゃん…焦らなくて大丈夫。あなたにはすごい力が眠ってるの。それが開花している途中なのだから)
「↑って言ってます」
「いつも優しい…銀ちゃん。ほんとお母さんと同じ話し方」
「台風に飛ばされないように、銀ちゃん新山さんのからだにしっかり巻き付いて守ってますよ」
小柄で小さな銀龍は、その細い体で雪恵を守るように寄り添っていた。
水七子の元へ来た修行竜の紫龍は、徳を積みどんどん大きくなっていた。
しかし中身はまだ幼い、好奇心旺盛な子どものような竜。肩に乗って水七子のみる世界を、彼女の目を通してみている。
そんなわけで、最近肩が重くて仕方がない。
徳を積むということは、得てして大層なことではない。
ゴミを拾ったり、他の人の仕事を手伝って重いものを運んだり、日常のささいなこと。
けれどそのたびに紫龍は反応し、ムクムク成長する。
(修行竜にとってのごちそうは、自分の竜付き人が善行をおこない、人に喜んでもらえ感謝の言葉を受けること。水七子よ、心して励み、紫龍を喜ばせ肥えさせると良い)
虹龍の言葉に、水七子は納得。
最近いいことをすると、胸がぽわんと、温かく幸せな気持ちになる。
人に喜んでもらえる幸福を知ることは、
人生が豊かになる。
竜が、そのことを教えてくれた。
休憩室のテレビ
お昼休み、天気予報が流れている。
天気図の台風
水七子には竜が輪になってまわるのがみえる。
どうか大きな被害が出ませんように
荒ぶる竜よ、どうか静まりたまえ
祈ることしかできない
けれど
祈らずにはいられない
竜の怒りももっともだが、災害に巻き込まれるのは大半が罪なき人々。
戦争を仕掛けた張本人らや、環境への配慮もなく工業を加速化させてきた国のお偉いさんなどは無事なわけで。
ニュースをみていると、時折やるせない気持ちになる。
(だからこそ…想い巡らせ、手を差し伸べるのです。力なき者、弱き者を救おうとする優しさや愛を持ち続けるのです。大きな力にひとりで立ち向かうことは容易ではないけれど、竜付き人達が力を合わせれば、あの強大な竜さえも遠ざけることができるから)
(そうなの!?)
(そうです、だから自信を持ちなさい。あなたは竜に認められし人間なのだから。己の無力を嘆くのではなく、自分に何ができるか、常に考えなさい)
人間も善悪いろんな人がいるように
竜もそうなのだ。
そして
荒ぶる竜は、怒る理由がある。
だからといって
罪無き者が犠牲になってはならない。
竜と人間がどう共存すべきか
それがこれからの未来の課題のように感じた。
今は
荒ぶる竜が人の世を通過しないよう
海に帰るよう
深い海に眠る海竜に願うのみ。
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