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第21話 青龍、家出する
朝礼。
それは会社において、主にトップが従業員に連絡事項を伝える場。
ある朝、その日店長はご機嫌斜めだった。
理由は…
「今年は猛暑ですが、電気代がかかり過ぎている」
そういうことか。
雪恵と水七子は顔を見合わせ苦笑い。
「経費がかさんでいるので、エアコンはこまめに消すように」
苦虫を潰したような顔で、店長長野は伝達する。
「そうは言ってもこの暑さだし。外仕事もあるのに休憩室のエアコンつけておかないと、誰か熱中症で倒れたらどうするのよねぇ」
「ほんとそうですよ。自分は涼しい事務所か外回りでクーラーついた社用車の中にいるからいいけど、もっと現場のことを考えてほしいですよね」
解散後、ぼやきながら持ち場へ向かう。
「最近また店長様子がおかしいわよねぇ。やっぱり業績不振を本部につつかれているからかしら」
「だからかなぁ、青龍さんもお疲れみたいで、今淡路島の海で休んでいます」
「そうなの!?」
「はい、あそこはイザナギとイザナミが最初に創った国産み神話、はじまりの島であり島全体がパワースポットですから。青龍さんは青い水を表す竜、そして海水は清めと禊の塩なので、強い浄化作用があります。青龍さんは深い海の底で身体を休めるのですね」
「そっか〜、竜さんたちもたまには夏休みとらないとね。ずっと私達を守っていたらうれしいけど、それじゃあ疲れちゃうものね」
「店長ずっと忙しくてどこにも行けないみたいだから、青龍さんはエネルギーチャージするために自力で向かったんでしょう。一時的に離れていても、竜と竜付き人の絆がしっかりと結ばれていれば支障はありませんから」
夕方。
その日は早番だった雪恵は先に退社し、水七子がひとり作業をしている時だった。
外回りから帰ってきた長野とバッタリ鉢合わせる。
「おつかれさまです」
「おつかれ」
その後、思わず出たひと言。
「大丈夫ですか?」
「へっ?」
「青龍さんも淡路島へエネルギーチャージしに行ってるし、だいぶ疲弊されてるんじゃないかって」
「すご…何でもわかるんだね君は。青龍側にいないんだ??」
「竜は常に自分の竜付き人を守るためにその力をつかっていますからね。前にも話した通り回復が必要な際はその人を誘導して連れていってもらおうとするけれど、それが物理的に無理なら自力で癒しスポットに行きます。でも離れていても互いの信頼と絆があれば大丈夫。竜の加護がなくなることはありません。近いうちに淡路島に青龍さんを迎えにいってあげてください」
「そうだね…今月はちょっと厳しいかな。来月くらいにでも行けたら」
よかった
ちょっと店長に笑みが戻った
それから一週間が経ち。
水七子は青龍の夢をみた。
無言でただ、こちらを見つめている。
目覚めると、
手のひらが熱い。
そして…
幾分若返った青龍が現れた。
(あれ?? 青龍さん…淡路島から戻ったのか。生命力が高まり若返ってる…でも何で店長の元じゃなくここへ?)
あれだけ人間っぽくおしゃべりだった渋い青龍だが、淡路の海底で眠り英気を養ううちに、自然龍に近くなり言葉を発することもなかった。
(と、とりあえず一緒に出勤しようか)
長野は竜の姿をみることはできない。
どう説明するか迷った挙げ句、やはりここはまず雪恵に相談。
「新山さん、手を出してください」
「こう?」
差し出された手のひらの上に、自分の手のひらを触れない高さで重ねる。
「何コレ?? 熱くてビリビリするっ」
「竜付き人の新山さんなら感じとれると思いました。今朝青龍さんが来て、それからずっとこんな感じなんです」
「えっ?何で店長のところに行かないの??」
「そうなんですよね、今青龍さんは自然龍に近い感じになっているので前みたいに話してくれなくて、ここに来れば何かわかるかと思って。この一週間私ほとんど店長と接点なくて、そっちの様子もわかんないし」
「それなら、ちょうど購入する物品のことで話しに行くから、一緒に行こうよ。さっき珍しく事務所にいたし」
「行きます!」
コンコン
ノックをして事務所に入ると、いたのは女性事務員だけ。
「あの、店長は?」
「つい今しがた来客があって、外で少し話してる。すぐ戻ると思うわよ」
「そうですか…」
出直そうとすると、ふいに声をかけられた。
「ねぇ、あなた達は店長に何か困ったことされてない?特に新人の風浦さんは大丈夫?」
「? といいますと?」
「ここだけの話、あんまり大きな声じゃいけないんだけど…」
大体ここだけの話というのは、そこだけでおさまらない。
「あの店長、セクハラの訴えがあって今本社でも問題になってるの」
「せ、セクハラ!?」
雪恵と水七子は耳を疑った。
「特に新人の子にはプライベートを探るようなことを聞いたり、卑猥な下ネタをしつこく話してきて不快な思いをしたって人が何人も人事に相談してるみたいで…ここ数ヶ月で辞めていった子の中には、それが原因の子もいるらしいの。そこから内部告発があったみたいで。もしあなた達も何かあればすぐに相談してね」
えっ
まさか
店長ってそんな人だったの??
青龍さんは
そんな店長に嫌気が差し
見切りをつけ
離れてしまったの??
(コウちゃん…)
虹龍は意味深な視線を水七子に向けた。
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