第22話 やさぐれ青龍

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第22話 やさぐれ青龍

「新山さん…店長ってそんな女ったらしなんですかね。正直ショックです」 仕事終わりのロッカールームで、水七子は嘆く。 「英雄色を好むとは言うけれど…でも私達には何にもないわね、セクハラ的なこと。あぁ!あれかっ。私達は女としてみてないってことか!ただの竜仲間みたいな。あははっ」 雪恵は明るく答えているが、水七子の気持ちはさえない。 「青龍さん…落ちこんでやさぐれてる…やけ酒飲んでる…」 他者には見えないこの光景。 生まれた時から見守ってきた竜付き人の不貞や不義理の行動に匙を投げ、別の竜付き人のもとへ移ってきた青龍。 信じていた者に裏切られ、やさぐれ、一升瓶を抱えやけ酒の日本酒をかっくらう。 「その横で銀ちゃんが寄り添ってなぐさめてる…」 「ぶっ、なにそれっ。銀ちゃんやっぱり優しい〜、ってか青龍さんかわいそうだけどおもしろすぎ!人間みたいっ」 雪恵は目に涙を浮かべ笑ってる。 「コウちゃんと紫龍は?? 何してるの?」 「ふたり(?)ともあきれた様子でその情景をみてる感じ。我間せず、みたいな。まぁ龍って基本つるまないからね」 「私も早くみたいわ〜、銀ちゃんと青龍さんの夫婦漫才みたいなコントみたいなやりとりw」 退社時、珍しく残業している店長の姿がみえた。 心なし背筋は曲がり覇気がなく、今までのような輝きはみられない。 「竜がいなけりゃただの人、か」 面接の時初めて出会った店長は、自信に満ち溢れいきいきと仕事に燃えているような風格で、妙に人を惹きつける魅力があった。 それが今や、見る影もなく。 ということは、青龍いてこそのあの姿。 (私が羨望の眼差しで見ていたのは、青龍であってこの人ではないのか。青龍とともに生きてきた人なのだから、青龍ありきの店長に私は魅力を感じ気になっていたのなら、今の店長は格別気になる人ではない、ということになる) なんだ 一気に、気持ちが冷めた。 セクハラ疑惑の件もあるし、残ったのは嫌悪感だけ。 「ちょっとがっかり…」 (だから言わんこっちゃない) (コウちゃん??) (あの男に近づかないほうがよい予感がした。最初からいい気がしなかった) (だから青龍さんのことも敬遠していたの?ただのツンデレじゃなく??) (今まであの男は青龍と一心同体だったのでな) (まじかー) 竜は、人格者を好む。 よって、成功者についていても 欲に溺れ 他者を蹴落とし 人の道に背いた行動をしていると 手のひらを返したようにさらりと去ってしまう。 竜付き人になれば 成功は間違いない。 時に多少の試練は与えられるかもしれないが、 それはその後の発展を考えれば容易いもの。 大事なのは 自分に竜がついているからと 慢心したり 得た地位や権力で好き放題するのではなく、 常に己を振り返り 欲望にまみれることなく 己を律することができる強さを持ち続けること。 「もしかして私が店長に竜付き人だと告げてしまったから、調子にのらせてしまったのかな」 だとしたら私にも責任があるんじゃ… (余計なことを考えずともよいっ) (コウちゃん!?) (竜付き人の自覚を持ちながら、異性への欲求を抑えきれなかったあの男の心の弱さが原因なのだ。そんな自分の竜付き人に愛想をつかし離れたのは青龍自身の意思、水七子には関係のないこと。おぬしは紫龍の面倒をみて、立派な龍となるよう育てることを考えておればよい。私はあのやさぐれ青龍を含め皆を見守っておるから) (コウちゃん…口ではなんだかんだ言うけど、結局面倒見が良くて優しいよね) (と、当然のことをしてるまでだっ) 相変わらずツンデレだけど、どこかお人好しの虹龍。 虹龍の竜付き人、水七子とよく似ている。 嫌いと思いながらも、竜が関わる者として店長を見捨てることができないのだ、多分。 そんな予感がしていた。
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