第23話 夜の雨

1/1
前へ
/23ページ
次へ

第23話 夜の雨

夜の雨は好きだ。 家の中で、静かに暗闇の雨音を聞いていると 心が落ち着く。 竜たちも喜んでいるようだ。 潤いに満ちていき、心地よくなる。 時々ふと、さみしさを感じる。 それは あの人に近づけないもどかしさ。 そう思うのは、 私はもっと 店長と話したいんだ。 竜の話をしたいんだ。 青龍の声を届けたい。 それなのに 仕事に忙殺されて 周りを拒絶する姿をみて 何も言えず 同じ職場にいながら すれ違いばかり。 所詮 私に興味もなく 関心もないのだろう。 わずかながらあるとすれば、それは 私の能力だけ。 あなたは こんな立派な青龍に選ばれ ずっと守ってもらっていた人なのだから。 私は気になってしまう。 竜に選ばれたあなたが 本当はどんな人なのか。 周りの評判ではなく、 自分の目で確かめたい。 だけど 「私男見る目ないからな…」 竜女特有の情け深さが ダメ男にも気を許してしまう。 コウちゃんにもよく注意されるんだけど。 店長という肩書きではなく、 長野さん あなたはいい人?悪い人? 青龍さんが私の元に来るなんて余程のこと。 何があっても、私の愛する竜たちを傷つけるのは許せない。 けれど そんな人じゃないと思いたくもある。 「何なんだろうな…」 (どんなに思い悩んだとて、人の心の内などわかるはずもない。考えるだけ時間の無駄だわ) 虹龍の手厳しいお言葉。 (もっともでございます…) 雪恵に言わせれば 「竜が三体もいるなんて幸せ過ぎ〜。店長が変わっちゃって竜付き人にそぐわない人になっちゃったのなら、そのまま引き受けてもいいんじゃない?? 風浦さんならできるよ!」 なんてお墨付きをいただいてしまった。 (まぁ紫龍は修行が終わったら帰るのだから…その時はコウちゃん、青龍さんとふたりだけどいいの??) (…遠慮する。今は静かな青龍も、徐々に人間くささを思い出したらまたあれこれしゃべるだろう。まるで古文を習っている気分になる。私はそこまで年いってない。あの竜とは茶飲み友達にもなれんし、なる気もない) 「ブッ!!」 茶飲み友達に、ふいたw (竜は基本単独行動だもんね) 気高くクールな虹龍。 その輝きは凛として、ブレがない。 水七子が憧れる姿だった。 月の光を浴びると その姿は尚更輝く。 (最近異様に眠いな…) 寝ても寝ても眠たいのは、運気の境目。 物事が新しく変わる前に、エネルギーを蓄えておくために、心身を休息させるために、人は眠りに落ちるという。 (私の未来は…大きく変わろうとしている…) 竜付き人は一般的に、カンがいいらしい。 一種の予知能力のような。それは、竜からのメッセージ。 竜は時に次元を超え、未来をも見通す力を持つ。 それを自分の竜付き人に伝えてくれるのだ。 (青龍さんを通じて、長野さんとの間に変化がありそうだ…) 雨音を聞きながら、夢見心地の中、水七子はそう感じていた。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加