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第4話 竜の導き
思いきって応募した園芸店。
早速連絡が来て、面接の運びとなった。
連絡をしてきたのは男性の店長。
電話越しの声、話し方が美しかった。
その声はとても穏やかで、男性にしては高めの声で
若い印象だった。
なんだろう…この感じ…
安心できる、耳に心地良い
まるで清流の流れのような、
森の木々に風が吹き抜けるような。
爽やかな空気が、スマホ越しに感じられた。
「なんだか会うのが楽しみになってきた」
意気揚々と履歴書を書き上げ、準備万端に当日を迎える。
不思議なワクワク感、
その理由はすぐに判明した。
面接で通された応接室、
しばらく待っていると、背の高い男性が入ってきた。
「あっ!」
声が出そうになり、思わず口に手をやる。
「青龍…」
つぶやいたその声は、幸い相手には聞こえてなかった。
(これほどの竜がついているなんて…この人何者なの?)
出された名刺には、店長の長野誠也(ながのせいや)
とある。
水七子は、竜付き人と面と向かって話すのはこれが初めてだった。
30数年の人生の中で、面識ない人で竜がついてるのを見たことはあるが、直接関わる人の中で、家族以外の竜付き人と出会うのは初見。
(わー…竜さん…)
心の中で話しかけると、なんとこの青龍、その言葉に反応した。
(そなた…我の姿が見えるのか?)
コクコクコクッ
面接の話に気も漫ろになりながら、
一般的には見えない存在の竜と
頭の中でしばし会話する。
(これはおもしろい。我も長い年月人間と関わってきたが、そちのような人間は初めてじゃ)
(青龍さんは古風な話し方なんですね…)
(太古の昔から生きておるのでな。そちは珍しい竜を連れておるの)
(はいっ、虹龍なのでコウちゃんと呼んでます♪)
(良い名じゃ良い名じゃ)
これだけのセリフ、普通に話せばそこそこの時間もかかるものですが、高速テレパシーのようなやりとりなので、現実世界ではわずか数秒間の出来事なので、面接の途中経過に問題はありません。
履歴書を見ながら基本的な質疑応答をもしていると、
店長が職歴で反応した。
「えっ、占い師さんなの??」
「はい、そちらはフリーランスでやっています」
「いいねー、おもしろいっ。よし採用!」
「へっ?」
マジですか?
嬉しいけど、少々ビックリ。
「僕ね、占い好きなんだよねー。今度やってくれる?」
「は、はい。もちろん、喜んで」
職歴に自称占い師。
特に資格とかない職種ですものね、
一歩間違えればあやしいやつと思われかねない。
書こうか書くまいか迷った挙げ句、
結局そこを占いで決めた。
結果は…力。タロットカード8番目のカード。
占い師であることを公表したほうが、この先いい流れになるという、勢いのあるカード。
水七子は様々な占いができるが、インスピレーションが物を言うタロットが一番得意だ。
そして8は竜を表す数字。
なんとなく、いい予感がした。
これは竜の導きかもしれない、と。
虹龍はいぶし銀の青龍を眼の前に、
(よくしゃべるやつ)
的な冷ややかな視線を送っていた。
(コウちゃん、初対面の竜さんにケンカ売らないようにねー)
竜は基本集団には属さない、孤高の生き物だ。
なので、他の竜と絡んだりはあまりしない。
しかし
ここで出会った青龍と虹龍はタイプは全く違うが、
不思議な運命に導かれるように
見守り人とともにこの地に集った。
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