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高校生の僕…家路
「やった!!!やった!!!すげー!!!」
僕は足の傷も忘れて、黒羽に駆け寄った。
紫の液体と、汗と血と泥で、黒羽の体は汚れている。
「う…なんか、変なにおいするけど?」
「戦った証なんだから、仕方ないだろ?大目に見てくれよ」
黒羽は頬を膨らませると、すぐに表情を戻して、僕に向かってしゃがみこんだ。
「はい」
「え…なに?」
「その傷じゃ家まで帰れないでしょ?俺がおぶっていくよ」
僕は黒羽に肩車してもらいながら、千の森を下っていく。
森の中だから、町と違って白んできた夜空には満点の星が広がっていた。
僕は黒羽の細いけどたくましい背中と、この星空を一生忘れないだろう、と思う。
「黒羽、めちゃくちゃかっこよかったよ」
「ありがとう。…かっこいいのは顔だけじゃないだろ?」
「ほんとだよ!すげー、すげーな」
「さっきからすげーばっか」
辺りは真暗で、虫の声と、黒羽が砂利を踏む音しかしない。
僕は贅沢な夜だな、とずっと感動している。
「これから、どうするの?」
「これからって?」
「だって、大鬼丸は倒したんだろ?」
「それは分からないさ。続きがないんだもの。もうこの漫画はおしまいだろ?まあ、また鬼が現れるかもしれないし、俺はもう戦わないのかもしれない」
続きがないーーーー。
僕はその言葉に、思わず黙り込んでしまった。
僕が黙り込んだまま、僕たちは家に帰って来た。
2階の窓からこっそりと戻ると、親はまだ寝ているらしい。
黒羽は僕を下ろすと、窓枠に手をかけた。
「じゃあね、晃くん」
別れの挨拶をする黒羽を僕は呼び止めた。
「待って、…もう、会えないの?」
「俺が漫画のキャラクターだってこと、忘れてない?また会えるさ。作者の君が望むならね」
黒羽はそう言うと、明け方の空に吸い込まれるように軽やかに跳んでいった。
そして、すぐに僕には猛烈な眠気が襲ってきて、僕はそのまま床で寝てしまった。
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