0人が本棚に入れています
本棚に追加
黒羽はしぶい顔をして、腰に帯びていた刀を抜いてくれた。そんなところにも真面目な性格が現れているな、と僕は作者目線で感じいってしまう。
鬼炎刀は血のような真っ赤な刀身に、炎の紋様が刻印され、鍔には金の烏が4体彫られている。
コスプレで見るような模造刀ではなく、ちゃんと歴史を感じる重厚感があった。
「触ったら駄目だよ。修行をしてない人間が触ると、火傷するから」
「うわー!すげー!すげー!」
僕は子供のようにはしゃいで、スマホで何度も連写した。
「俺、あんまり写真とか好きじゃないんだけど?」
「だって、この歴史的瞬間を残しておかないと!俺、これを残さないまま死んだら後悔する!」
「おおげさだな…」
黒羽は呆れたように呟き、綺麗な黒髪をさらさらと揺らす。その姿すら様になっていて、僕はぽーっと見とれてしまった。
「じゃあ、本題に入るね」
「あ、うん」
黒羽は僕を見つめると、神妙な顔をして、息をつめた。
「今夜、千の森に大鬼丸が現れるんだ」
「え?」
千の森というのは、この町の外れにある、大きな森のことだ。
「俺はそこへ行く。これは、俺と鬼との最後の戦いになる。そこに晃くんにもついてきてもらいたいんだ」
「マジで?!行く!絶対行く!」
「…食いぎみだね」
「だって、それって最終決戦ってやつでしょ?!黒羽が戦うんでしょ!?すっっっごい見たい!!」
「…まぁ、戦うことは戦うんだけど」
黒羽が拍子抜けしたように肩を落とす。漫画なら、汗マークが頭につきそうな顔をしていた。
そんなこともお構い無しに、僕はこの先の自分の幸運を全て使い果たしてしまったような気分になる。
自分の描いた漫画の最終回をこの目でみられるなんて、どんなご褒美だよ!と僕の胸はワクワクではち切れそうだった。
「まぁ、晃くんが、嫌がってなくてよかった。それじゃあ、千の森へ行こうか」
と黒羽が僕の手を握ると、窓枠をけり上げて、僕たちは夜の闇へ飛び上がった。
最初のコメントを投稿しよう!