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スーパーで買い物をしている間に雨が上がった。
良かったなと思いながら、カートをカート置き場に戻している時、店員さんに呼び止められた。
「すみません。もしかして…」
なんとそれは中学の時の同級生だった。
「わあ、久しぶりだね」
「二十年ぶりくらい?あ、同級会で会ってるっけ?」
「ううん。私、同級会には行ってないから…」
このスーパーには数日前にも来ていた。
その日、煮干しを選んでいると、なぜだか自分のほうを見ている店員さんがいるなあとは思っていた。それがもちろんこの同級生である。
「よく私だって分かったね」
感心して言うと、彼女は得意げな顔で言った。
「うん、分かったよ。“地元っぽい顔”って、やっぱりあるんだよね」
「へえ」
彼女の言う“地元っぽい顔”というのは分からなかったが、私はそういう顔なんだなと思う。
「実は私、今、いろんな人に声をかけてるんだけど…」
彼女は、ちょっと改まったような様子になった。
何だろう。何かの勧誘だろうか?
「うちのスーパーでパートに入ってくれる人を探してるの。それで、知り合いに仕事を探してる人がもしいたら…」
「ああ。なんだ、そうか」
私は思わず気が抜けて笑ってしまった。
彼女はこのスーパーの正社員で、しかも係長なのだそうだ。
「人が足りなくて大変なんだよ~。条件は悪くないと思うんだけど、応募してくる人が全然いなくてさ~」
試しに時給がいくらなのか聞いてみる。
「最低時給プラス六十円。正社員登用もあるよ」
なるほど。この辺りでは割りといい条件だ。
「じゃ、私はもう行くね。またね」
そう言い残して、彼女は店内に戻っていった。
彼女は、私が今どこに住んでいて、何をしているのかということには全く触れなかったが、何か察するものがあったのかもしれない。
半月ほど前、私は実家に出戻ってきたのだった。
でも、だから何だということでもなかった。
こんなふうに思えるようになったのは、離婚するまでにいくつもの修羅場を経験したせいである。修羅場は人を強くするらしい。
空は雲が晴れて、日が差してきていた。
このスーパーで働くという手もありだなと、地面にできた水たまりをよけて歩きながら、私は家路についた。
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