1人が本棚に入れています
本棚に追加
雨が降っている。
やっぱり105年目も、雨だった――いや。
止んだ。
105年と328日間降り続いた雨が止み、そしてPはポットから勢いよく飛び出した。
その瞬間、Pは、強い風を感じた。
いつの間にか薄くなっていた雲たちが、風に散らされ消えていく。
Pの視界が、あまりに強い光を受けて束の間白く染まる。すぐにレンズの機能を修正した。
今はちょうど、夜明け時らしい。
深い藍色の夜空は、東へ向かうPの後方へとどんどん遠ざかっていく。藍色の中でちらちらと瞬く光の粒は、星だろうか?
月の姿はないから今日は新月かもしれない、いくらPの知性が低いとはいえ月齢くらいは計算すればわかるのだけど、でも。
月を見れなかったのは残念だが、今は計算をしている場合じゃない。
ただ、飛ぶのだ。
東へと飛んで、飛んで、飛んで……ああ、空をオレンジ色に染める、あのとんでもない光を放つモノ……きっと、あれが太陽だ。
空のオレンジは透明に近づき、そして青に変わる。
Pの機体の全部に染みるような、青。翼が大気を叩くたびに、自分が青くなる錯覚。
海は105年振りの太陽光を浴びて、輝いていた。その上を飛び続けるPは、視界の片隅に茶色と緑色を捉える。陸地かもしれない、植物かもしれない、見に行きたい気持ちもある。
だけど今は、やっぱりそれどころじゃない。
思考している時間も惜しいくらいに、Pは飛ぶことが楽しくてたまらないのだ。
だって、こんなにも世界は光に満ちている。
このまま飛び続けたら、自分も光になってしまう気がする――それでもいい。それでいい。
雨上がりの世界を、Pは知った。
もっと、知り尽くしたいと思った。
光になるまで飛ぼうとPは決めた。
そうしてPは、水平線にかかる大きな虹めがけて、まっすぐに飛び続けたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!